(C) 落合由利子
2016年6月、国民投票で英国がEUから離脱することになったニュースは世界中を駆けめぐった。英国は右傾化したのか―。ブレイディみかこさんは英国在住20年、貧困地域の託児所で保育士として働きながら、エッセイや政治批評を執筆してきた。パンチの効いたパンク音楽のような筆致が特徴だ。
みかこさんは、EU離脱の本質を「(思想の)左と右ではない。(階級の)上と下だ」と言い切る。国民投票では中産階級の多くが残留に投票し、労働者階級は離脱に投票したのだ。10年から保守党政権となった英国では、財政緊縮が行われ、福祉や教育など暮らしの基盤への投資を減らした。その結果、貧困に陥る子どもが増え、格差が固定化して「ソーシャル・アパルトヘイト」と呼ばれる状態が生まれ、若者は奨学金返済と高失業率にあえぎ、「ゼロ時間労働契約」の登場で「有業者」でもフードバンクに並び、失業保険や生活保護削減で餓死者も出た。そして緊縮はEUのトレンドでもある。
みかこさんの近著『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)では、自身が働く託児所の「緊縮」の風景が描かれる。貧困率の高い地域の子どもたちに「自律した精神的・知的土台」を作るという高い理想を持つ託児所だったが、補助金を削られ、新しいおもちゃを買う予算がなく、富裕地区のゴミ捨て場から拾ったおもちゃを消毒して使ったり、困窮家庭の巡回事業ができなくなったり…。制裁"サンクション"で生活保護が止まり疲弊するシングルマザー、やせ細る子ども。挙げ句に託児所はフードバンクになった。「子どもに未来をあげる場所が、人に食べ物を与える施設になって…。食べ物を見て泣き出す人もいた。あんなに人の自尊心をへし折る場所もない。緊縮で一番痛めつけられているのは底辺にいる人たち。経済規模が小さくなり、社会も小さくなり、人の気持ちもデフレ状態。排外主義だって生まれる」。
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