(C) 飯田典子
ひとりで頑張ってきたね。そんなに早く大人にならなくてよかったよね―。『裸足で逃げる』(太田出版)は、著者の上間陽子さんの綿毛のように柔らかい声が通奏低音のように響く。
本書は、キャバクラで働いたり、「援助交際」で生活をしていた10代から20代の6人の少女たちの記録だ。恋人や家族からの暴力、虐待、家庭内の居場所のなさ、集団レイプなどから、たったひとり裸足で逃げた少女たちが、限られた選択肢の中で、傷だらけになっても、自分の居場所を作りあげようとする姿が描かれる。きれい事ではない。欲望を語れない少女も多い。でも少女たちの姿が、私に迫る。もし同じ立場だったら私はどうしただろう? こんな風に感じるのは、上間さんが誰にも聞かれてこなかった少女たちの声を、丁寧にすくいとっているからだろう。「きちんと彼女たちの話を聞くんです。すると彼女たちの頑張りが見えるから、感想を伝えます。4年間じっくり付き合って分かったんですが、状況から抜け出るタイミングを本人たちが見つけていきますね」と上間さんは言う。
沖縄県の米軍基地のフェンスに囲まれた、大きな繁華街のある町に育った。地元の中学校は荒れていた。ある日、友人2人が家出をし、1人がナンパをしてきた男性からレイプされた。もう1人は母親を失い、ヤクザに売られて消えた。「私たちの街は、暴力を孕んでいる。そしてそれは、女の子たちにふりそそぐ」(本書より)。「女の子たちの疲れた顔」を見るのにうんざりした上間さんは、高校は地元から離れた進学校へ行く決意をした。「学校で階層分断を感じた。中卒で働く人を下にみるクラスメイトに憎しみが沸きましたね。後に少女たちが出会う役所の職員や医者にも同様に感じました。自分もそうなったかもしれないと思いながら…。だから中学の友人のことは忘れちゃだめだって思いました」
続きは本紙で...