自転車で日本縦断する自らの旅を映画にした『スタート・ライン』の公開で、全国を飛び回る今村彩子さん。生まれつき耳が聞こえず、補聴器をはずせば無音の世界に戻る。「だから、どこででも寝られる」と、にっこり。そう語る言葉も明瞭だ。
「すべて母のおかげ。小さいころから家中に『かべ』や『つくえ』と書いた紙を貼り、文字を覚えながら口の形を習い発声の訓練をした。母によれば、泣きながらやっていたらしい」 会話に支障ない今も、聞こえる人の前では臆するという。
4月生まれで体力があり、足も速かった「彩ちゃん」は、聞こえる子ばかりの小学校でも困らなかった。「でも高学年になると男子は外、女子は教室でおしゃべりと遊びも変わる。会話がわからず愛想笑いでごまかすようになり、寂しさが膨らんでやがて怒りになった。どうしてわかってくれないの、って」
先生や友達の唇を読むのに集中力とエネルギーを使い果たす一日が終わるとぐったりした。慰めは、父が借りてくるアクションものビデオ。「最後は必ず正義が勝つ筋にスカッとし、明日も頑張ろうと思えた。大きくなったら映画で元気をわけてあげられたらいいな、とも」
続きは本紙で...