一見硬そうなタイトルの『刑事司法とジェンダー』(インパクト出版会)という本は、牧野雅子さんが警察官を退職し、進学した大学院における博士論文を加筆修正した著書である。この本を読んで衝撃を受けたのは、きっと私だけではないだろう。
性暴力と法律に関しては、たとえば2次被害の問題や被害者がどれだけ抵抗したかが問われるなど、さまざまな課題があることは知っている。
しかし、加害者と刑事司法が結託して強姦の物語を作り上げ、その物語が被害者に対するスティグマ(社会的な烙印)をさらに強化し再生産していく過程は、驚きの連続だった。牧野さんは強姦加害者に何度も会い、綿密なインタビューを行い書き上げた。 こんな本を書く人は、いったいどんな人なのか。
「動機で何かを語るって、どうなのかな。今語ろうとすれば、今思ったことを語ることになり、当時思ったこととずれてしまう。わかりやすい物語に過去が回収されてしまうのが嫌なんです」。なぜ、警察を辞めたのか、そもそもなぜ警察官になったのかをしつこく聞く私に、牧野雅子さんはうつむき加減にやさしい声で言った。
もともと大学では教育学部を専攻していた牧野さんだが、卒論には「男の世界に挑む女性たち」というテーマを選んだ。ちょうど、労働基準法が変わって、海上保安庁で巡視船艇の女性船長や、気象庁に女性専門職員が登場した時代だった。大卒女子が大卒男子と同じような要件で採用された初めての年。 「世間では事件事故が毎日のように起こっているのに、いつまでも何もできない、傍観者でいる自分が嫌だった」という思いで警察官となったが、そこはやはり厳しい男社会だった。
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