死の覚悟なんていらない
「尊厳のない生の延長線上に〝尊厳死〟がくるのです」―ドキッとする発言だが、ALS(筋委縮性側索硬化症)ケアの講演などで全国を飛び回り、尊厳死法制化に反対するオピニオンリーダーでもある、川口有美子さんの言葉には重みがある。
川口さんは、ALSを発症した母親を12年間自宅で介護した。その介護中に、ALS患者の橋本操さんたちと出会い、ALS患者の支援団体「ALS/MNDサポートセンターさくら会」を設立。地域にはヘルパーを養成し派遣する会社が必要と、介護事業所「ケアサポートモモ」も立ち上げた。現在、これらの運営と、重度コミュニケーション障害をもつ人のQOL(生活の質)と意思伝達方法を患者と共同研究し、ALSヘルパー養成研修事業や介護派遣事業所開設の支援も行っている。
ALSは全身が徐々に麻痺していく病気。呼吸器をつければ長く生きられるが、寝たきりや家族の重荷になりたくないと、呼吸器をつけずに亡くなる人は7割になる。〝生〟でなく、〝死〟を選ばずにはいられない現実がある。
「本来、尊厳は生につながる言葉。尊厳がないと見られがちなALS患者ですが、全身動かず、人工呼吸器をつけても、橋本さんのように人生を謳歌している人たちがいます。〝延命〟は〝税金の無駄遣い〟と悪口を叩かれるけど、橋本さんは稼いでいるし、介護事業所は、患者のケアに税を使い、税はヘルパーの生活に還元されるのです」
尊厳死議連が進める「尊厳死法制化」は、〝終末期〟と判断された場合の延命措置の不開始と中止を定めようとするもの。
「死期が近い人に多量に投薬して儲ける病院など過剰医療の問題はある。でも終末期を予測するのは難しいうえ、何より患者は〝死にたい〟と〝生きたい〟の間で絶えず揺れます」
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かわぐち ゆみこ
1962年東京都生まれ。「ALS/
MNDサポートセンターさくら会」副理事長、「ケアサポートモモ」代表取締役、日本ALS協会理事。著書に『逝かない身体 ALS的日常を生きる』(医学書院 大宅壮一ノンフィクション賞受賞)、『末期を超えて』(青土社)ほか。