地域で子どもたちを見守る
35歳の監督は、黙っていれば学生に見えるほど若々しい。初の長編映画『私の少女』も、みずみずしさにあふれている。
とはいえ内容は軽くない。同性愛の女性警官ヨンナムと、家で虐待を受ける少女ドヒが出会い、互いの孤独を抱きしめる物語だ。舞台は小さな海辺の町、韓国・麗水。この田舎町で、監督自身も生まれ育った。
監督と映画との出会いは8歳の頃。大きな映画館が突然真っ暗になり、映写機がカタカタ鳴ると、スクリーンが光って怪獣が現れた。そのときのワクワクは、いまも忘れられない。父親が映画好きで、家にも山ほどビデオを借りてきたから、父のいない間に見まくった。
こんな楽しい世界で働けたら、と夢見たのはいつ頃だろう。今回の撮影で久々に帰省し、高校2年の日記をめくると1頁目に「私は映画監督になる」と書かれていて、微笑んだ。
それでも監督への道には曲折があった。ソウルに出て、仲間と映画作りにのめりこみ、大学は除籍。しばらく故郷で自分を見つめ直した後、再入学した大学では哲学も学んだ。それが「人間や社会の見方を深め、今の自分の土台を作ってくれた」。
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チョン ジュリ
1980年、韓国の麗水生まれ。成均館大学を経て国立芸術大学(韓国芸術総合学校映像院)映画科卒業。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に招待され高く評価された『私の少女』は、東京・ユーロスペースほかで公開中、全国順次公開。