喜劇で伝える社会のありよう
「食べていくのは大変だけど、毎日が充実しています」―キュートな笑顔でこう語る佐野キリコさんは、北は北海道から南は沖縄まで、家族3人で全国を旅する野外劇団「楽市楽座」の副座長。
手作りプールに浮かぶクルクル回る円形舞台。公園に設置された、屋根も壁もない舞台で、開演前からオリジナルの楽しい音楽が奏でられる。舞台を囲むパイプ椅子に思い思いに座った観客に、色とりどりの折り紙が配られる。観劇料はなし。喜劇仕立ての芝居の気に入った場面で、折り紙に包んだ投げ銭が舞台に次々と投げられる。
白塗りのメイクも、手作りの衣装も、オリジナル音楽も、日ごとに変わる借景も…すべてが豊かに溶け合う幻想的空間が出現し、現実を忘れさせる。
キリコさんは、宝塚や新劇、ミュージカル好きの両親のもとで育ち、幼い頃から「舞台人」になるのが夢だった。中学では演劇部。声学やピアノも習った。
成人後は仕事のかたわら、フリーの役者として舞台に立ち、自身のプロデュース公演も行っていた。
そんなとき出会ったのが小劇団「楽市楽座」の芝居。
「27歳の時に大阪で、楽市楽座のテント劇を見たんです。私がなじんできた劇場の芝居とはまったく毛色の違う、どこか土くさく躍動感あふれる野外劇に新鮮な魅力を感じました。音楽がオリジナルであることにも共感して、『入りたい』と言ったら『入れば』と軽く言われて…(笑)」
入団して間もなく、急速に親しくなった座長・長山現さんとの同居生活が始まり結婚。翌年、娘の萌さんが生まれた。
芝居で食べていけるわけもなく、仕事をして夫と萌さんを養いながら、芝居を続ける日々。5年後に夫が出版社に就職し、専業主婦になったキリコさんだが、芝居を仕事にする夢を捨てきれず悶々としていた。
続きは本紙で...
さの きりこ
1967年、奈良県生まれ。子どもの頃から演劇少女。フリーを経て、1999年に「楽市楽座」に入団。歌はもちろん、アコーディオン、バイオリンも独学で習得中。2005年、飛田演劇賞女優賞を受賞。今後の公演予定等はhttp://yagai-rakuichi.main.jp/