その人に惚れ込んで撮っているから
2012年の1月25日号に登場した『乳がん 後悔しない治療』(径書房)の著者、渡辺容子さんは、「生きているたった一人を大事にしてください」という言葉を遺し、同年3月に亡くなった。彼女の最期の2年間を撮影したドキュメンタリー映画『がん・容子の選択』が昨秋完成。制作したのは、映像制作プロダクション「ビデオプレス」の佐々木有美さんと松原明さん。深い内容と真摯で温かい佐々木さんのナレーションが耳に残り、話を聞きたくなった。
「容子さんとは教育関係の裁判の運動の中で出会いました。最初は静かな人というイメージでした。新聞で、容子さんが乳がんで余命1年と告知されていたことを知り、驚きました。治療の体験記を出版すると書かれていて、彼女のポジティブな生き方に共鳴し、取材を申し込んだら『何でも撮ってちょうだい』と即答でした。オープンな性格にますます魅せられました」
映画は、がんを受け入れ、残りの人生を充実させて生きようとする容子さんを映し出す。主治医や家族、多くの友達が、彼女の「死に方」に協力していく。周りと対等な信頼関係を築いてきた容子さんの「生き方」がそこに見える。
「容子さんから教えられたのは〝メメント・モリ〟ということ。死を忘れるな、死を記憶せよということですね。死に方への追求はどう生きるかにつながることだと悟りました」
無意味な治療を拒否し、「がんと闘わない」容子さんや、彼女の主治医であった慶応大学医学部の近藤誠医師たちを通して、佐々木さんたちは手術や抗がん剤偏重のがん治療の在り方へ問題提起もした。完成上映後、「なんて見事な生き方!」「がんは怖くない、そう思える映画でした」など、感動の言葉が多く寄せられ、今年、劇場公開が決定した。
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ささき ゆみ
1952年、東京都生まれ。松原さんと共同制作した『人らしく生きよう 国労冬物語』(2000年)『リストラとたたかう男』(03年)『あきらめない 続・君が代不起立』(08年)は、平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞を受賞。レイバーネット日本・事務局次長。