観客との一体感が忘れられなくて

「子どもたちは紙芝居、ほんとに好きなんですよ」と菊池好江さんは話す。映像でも何でもポケットに入れて持ち運べる時代なのに、その対極にあるローテクな紙芝居を子どもたちが楽しんでいるというのは、何だか不思議。
子どもたちだけではなく、菊池さんをも虜にしてしまった、紙芝居の醍醐味を語ってもらうことにした。
アンデルセンの童話に「おかあさんのはなし」という短編がある。原作は病気の子どもを死に神が天国に連れて行ってしまう、という悲しい話だが、紙芝居では母は最後に子どもを取り戻すことになっている。
まだ20代のころ、働いていた大学の研究室を辞めた菊池さんが、子どもの文化学校で「おかあさんのはなし」の紙芝居を見た時、強い衝撃を受けた。
「絵は岩崎ちひろさんだったんです。でも何より、あ、私、この話知ってる。紙芝居なんて縁がなかったのにどうして?と驚いたんですよね」
実は菊池さんは中学生の時、演劇部に入っていて紙芝居にも触れていたのだった。時を経ての、思いがけない再会。そこから興味が膨らみ、紙芝居グループ「紙芝居を演じる会ひょうしぎ」に参加して本格的に学び始めた。
「保育園ではゼロ歳児も、一緒に見るんですよ。2歳ぐらいの子どもたち、反応いいですね。夢中になって、一緒に言葉を発して、終わった後は『ごっこ遊び』。私はこの役って決めて、なりきってね。それ見ていると、大人よりよくお話を理解しているの。恐るべしですよ」
子どもたちの心を豊かにするために紙芝居を、などと口で言うのはたやすいけれど、積み重ねていくのは大変なこと。菊池さんはむしろ、楽しいお話を見聞きしたり心温まる体験をすることが、大人になって訪れる様々な境遇のもとで自分を支えてくれる力になる、と考えている。
「私の好きな『モチモチの木』では、おじいさんが怖がりの豆太に話すの。『おまえは弱虫じゃないぞ。自分を弱虫だと思うな。人間優しささえあれば、やらなきゃならんことはきちっとやるもんだ。おまえは勇気のある子どもだぞ』って。そんな言葉が子どもに届くといいですね。私は『幸せの記憶』と呼んでいるのですが、紙芝居は生きていく力を育ててくれるものではないかしら」
絵本は一人でも読めるけれど、紙芝居は誰かとその時間、空間を共有する。
「同じ作品でも、その日その場所によって生き物のように変化するんですよ。演じ手と観客が一緒になって泣いたり笑ったり一つの作品を味わって、一体感が生まれた時は、最高ですよ」と菊池さんは目を輝かせる。そういえば紙芝居は「芝居」。ライブと同じ。
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