私の中のわたしたち 解離性同一性障害を生きのびて
オルガ・R・トゥルヒーヨ 著 伊藤淑子 訳
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私の中のわたしたち 解離性同一性障害を生きのびて
- オルガ・R・トゥルヒーヨ 著 伊藤淑子 訳
- 国書刊行会2500円
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本書は、性虐待の治療と回復を目的に書かれた。著者は、父の母へのDVを止めようとし、3歳で初めて父からレイプされた。その後、父が教えた2人の兄からもレイプされつづけた。
そんな子ども時代の過酷で悲劇的な体験から自分を守り生きていくため、多重人格障害と言われたDID(解離性同一性障害)を発症。31歳のときにDIDと診断され、弁護士として司法省で働きながら治療を受けた。解離している「わたしたち」を、「私」に統合していく治療の過程は、厳しくつらい。身体の痛みや自殺願望など、つぎつぎと表れる症状に、時間をかけ丁寧に共に歩んでくれた精神科医。治療時間を確保し、異動を認め理解を示してくれた同僚や上司。何より子ども時代、隣人のおばあさんや学校の先生たちのごく普通の優しさや愛情が生き延びさせてくれた。
当事者こそが、何より人を助けられる専門家である。著者の経験は貴重で、被害当事者、支援者、そして多くの人に伝えたい。(澄)
沖縄からアメリカ 自由を求めて!画家 正子・R・サマーズの生涯
正子・R・サマーズ 著 原義和 編
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- 沖縄からアメリカ 自由を求めて!画家 正子・R・サマーズの生涯
- 正子・R・サマーズ 著 原義和 編
- 高文研1600円
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のどかな絵ではない。生まれ故郷の沖縄の海を描いても力強い。昨年、88歳で逝去した画家、正子・R・サマーズさんが送ったのも、そんな人生だったかもしれない。貧しい家に生まれて、たった4歳で父親から那覇の遊郭に売られ、16歳で客を取らされた。「生き地獄のような」夜。沖縄戦では日本軍慰安所に送られ、壮絶な地上戦を生き延びた。慰安所を語る日本人女性の貴重な証言でもある。
1945年7月、摩文仁で米軍に保護された。戦後、一人の米兵と出会い、アメリカへ渡る。支えてくれた夫の母、2人の子どもを養子に迎え、初めて家庭の温かさを知る。しかし、夫婦の形は変わってくる。激動の戦後をともに生きた夫との別離、その哀しみを埋めたのが、絵画だった。
正子の絵に宿るのは、逆境をはねのけて生きる力だろうか。時代の荒波のなかで自由を求めて懸命に生きた、女性の物語。(室)
旧アメリカ兵捕虜との和解 もうひとつの日米戦史
徳留絹枝 著
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- 旧アメリカ兵捕虜との和解 もうひとつの日米戦史
- 徳留絹枝 著
- 彩流社3000円
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太平洋戦争初期、フィリピンで日本軍捕虜となった米兵のうち、1万人余が「バターン死の行進」で、日本に送られた1万人以上のうち1割が強制労働下の虐待や栄養失調で亡くなった。戦後、元捕虜たちは日本政府と企業に対し誠意ある謝罪を求めて活動してきた。
本書は1999年、元捕虜たちの裁判を知り、支援者として友として歩んできた著者による活動の記録だ。米国での裁判は、サンフランシスコ条約で解決済みとして棄却、訴訟を阻止するためのロビー活動に日本政府は5億円を支出、日本企業への働きかけも徒労かと思われたが、扉は開いた。2010年、民主党政権時の外相が、来日した元日本軍捕虜に政府として初めて謝罪の言葉を述べ、15年、企業として初めて、三菱マテリアルが謝罪した。70年間、待った言葉だった。
「僕が生き残ったのは、過去の教訓を忘れず平和な世界を築いてほしいというメッセージを若者に託すためだった」という元捕虜の思いを手渡していきたい。(い)