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ふぇみんの書評

Black Box ブラックボックス

伊藤詩織 著

    Black Box ブラックボックス
  • 伊藤詩織 著
  • 文藝春秋1400円
今号2面に登場の伊藤詩織さんが初めて本名を明かし、自らに起きた準強姦被害と、性暴力をめぐる司法・捜査・社会の改革を求めて記した著。表紙の表情や行間から、「被害者像」をはねのけ、ジャーナリストとして、愛する妹や友人ら、口を塞がれている世界中の性暴力サバイバーのために立ち上がった力強い意志があふれる。  PTSDに苦しみながら詩織さんが経験した数々の出来事のうち、加害者の逮捕直前に菅官房長官に近い中村警視庁刑事部長(当時)が逮捕を執行停止にしたこと、警察と連携する示談専門の弁護士のところに連れて行かれたことなど、法治国家とは名ばかりのこの国の歪みに驚く。  しかし、あえて私が指摘したいのは、彼女が性暴力被害者支援ホットラインや専門病院でも、心ない対応を受けていたことだ。女たちが積み上げた組織が詩織さんを救えなかったという事実を、私たちはどう受け止めるのか。私たちには詩織さんに応える義務がある。(登)

私たちの星で

梨木香歩、師岡カリーマ・エルサムニー 著

  • 私たちの星で
  • 梨木香歩、師岡カリーマ・エルサムニー 著
  • 岩波書店1400円
『西の魔女が死んだ』ほか多数の著作がある作家・梨木香歩さんと、アラビア語講座の講師であり、東京新聞で「本音のコラム」を連載する師岡カリーマ・エルサムニーさんの往復書簡。出版社の広報誌への連載にあたり、イスラームのことを学びたいという梨木さんの希望に応えて、エジプト人でイスラーム教育者の父と日本人の母を持つカリーマさんを編集者が紹介したのが始まりという。  カリーマさんの宗教的原風景、祖母ともいえる人の故郷・ロシアのカザンへの旅。カンボジアのタ・プロム遺跡で感じた「寛大」から、フランスのブルキニ(ムスリム女性のための水着)禁止事件の非寛容への連想。それに応える香歩さんのトルコの思い出と、江戸時代の隠れキリシタン弾圧の話…。  「寛容」と「フェアネス」がこの本に埋め込まれたキーワードだ。  この本を読みながら、世界との向き合い方と自分のあり方を考える。二人の知性と思索に立ち会う、心躍る書であった。(ね)

人生の同伴者 ある「在日」家族の精神史

玄善允 著

  • 人生の同伴者 ある「在日」家族の精神史
  • 玄善允 著
  • 同時代社2900円
本当におもしろく読める本である。著者は、植民地時代に済州島から日本に移住した両親の下に生まれた在日2世で、現在大学で教鞭を取る。両親と自身の個人史を中心に、複雑に絡みあった人間関係をまるで小説のように描写していくことで、ひとつの家族が「在日」としてどのように形作られていったのかが浮き彫りにされる。  大阪で町工場を経営し、日本社会に生活の基盤を築いていった両親と家族の日常が、時代情況を絡めながら仕事、家計、介護、果ては男女関係から相続問題までも包み隠さず綴られる。  さまざまな人間の生き様や関係を読み進める中で、「在日」や「密航者」が日本の高度経済成長を下支えしていたこと、世代間の意識の隔たり、朝鮮半島との一筋縄ではいかない関係など、重層的な「在日」という存在について、日本社会の同時代史としていろいろと考えさせられる。  「民族問題」を考えるなどと肩肘をはらずとも、まずは読み始めてもらいたい一冊である。(ち)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月750円、3カ月2,250円
 6カ月4,500円、1年9,000円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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