マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々
工藤律子 著
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マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々
- 工藤律子 著
- 岩波書店1900円
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麻薬をめぐる争いで、この10年間に15万人以上の死者と3万人の失踪者が出ているメキシコ。本書は、メキシコ内でも危険地帯とされる地域に潜入した著者による、最前線からのルポだ。
長年メキシコのストリートチルドレンにかかわる著者らしく、ルポのきっかけは親を殺され孤児になった子どもたちの存在だ。親を殺され、暴力文化を学ぶ子ども、貧困と養育放棄で麻薬カルテルに入り、下っ端でこき使われた末に殺される子どもや若者、性産業に人身売買される少女たち…。著者はやがて、司法や警察、軍が麻薬カルテルの片棒を担ぎ、「マフィア国家」と化している実態に行き当たる。
背景に性差別や行き過ぎたグローバル資本主義があると悟る著者は、子どもたちの居場所をつくり、非暴力・平等を説き、公正な経済・社会を築こうと立ち上がる人たちも追う。その新しい芽は、メキシコと同様の背景を持ち、権力の私物化が進む日本の、世界の希望かもしれない。(登)
無冠、されど至強 東京朝鮮高校サッカー部と金明植の時代
木村元彦 著
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- 無冠、されど至強 東京朝鮮高校サッカー部と金明植の時代
- 木村元彦 著
- ころから2300円
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サッカーにもマッチョな物語にもあまり興味がないのだが、東京朝鮮高校(朝高)サッカー部と男たちの物語に惹き込まれた。日本のサッカーと移民・難民としての在日朝鮮人の歴史が絡みあう、ドラマチックで魅惑的な書だ。
1996年まで、全国高等学校体育連盟に加盟させてもらえず公式戦に出られなかった朝高サッカー部は、全国の強豪校から「朝高詣で」と呼ばれる対戦を望まれるほど実力があった。その「影のナンバーワン」に育て上げたのが、東京のコリアンタウン「枝川」出身の金明植監督だ。貧しい「移民」が多い枝川では、子どもたちが草サッカーに熱狂し、多くの名手が生まれた。在日朝鮮人を差別する日本社会への反骨精神を力にし、サッカーやケンカに強くなった朝高生たち。朝高生と日本人学生のケンカが絶えない時でも、朝高と日本の学校のサッカー部は交流を重ね、日本のサッカー界に影響与えた。金監督らの人生を追いながら、多民族共生社会を思索する書だ。(よ)
総点検・リニア新幹線 問題点を徹底究明
リニア・市民ネット 編著
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- 総点検・リニア新幹線 問題点を徹底究明
- リニア・市民ネット 編著
- 緑風出版1400円
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東京・品川と名古屋間を40分、大阪間を70分弱で結ぶリニア中央新幹線計画。本当に可能なのかと考えているうちに工事が始まってしまった。編著者は2009年に結成した、リニアについて検証する沿線各地の市民団体。Q&Aスタイルで問題を明らかにする。
強力な電磁波の遮蔽が可能か、断層や破砕帯のトンネル工事、水源の水涸れ、大量の残土処理方法、大深度トンネルの危険性…。地震や事故時の避難は「お客様同士で助け合っていただきます」とのJR東海の言葉に驚愕する。元社長が「絶対採算が取れない」と発言したが、昨夏、安倍首相が3兆円の巨額財政投融資を発表。
リニアの問題点は社会的議論も不十分なうえ、「他人事」感が強いのか、広まらない。経済界や連合などが後押しし、原発推進と同様に国の施策にさえなりつつある。この無謀な巨大事業に対して市民は何ができるのか。本書が示す問題を噛みしめながら、取り組まなくてはと思う。(三)