社会的入院から地域へ 精神障害のある人々のピアサポート活動
加藤真規子 著
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社会的入院から地域へ 精神障害のある人々のピアサポート活動
- 加藤真規子 著
- 現代書館2200円
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日本は“精神病院大国”である。精神科病院入院患者数は約31万人、1年以上の入院患者は20万人もいるという。世界は脱施設化・地域医療化が進んでいるというのに、2016年7月に起きた相模原市の障害者施設での殺傷事件を受け、日本政府は、精神障害者の監視強化を図る精神保健福祉法「改正」を打ち出した。
「精神障害者ピアサポートセンター・こらーるたいとう」代表の著者は、日本の精神保健の改善を訴える。「社会的入院」とは医学的に入院の必要がないのに、ケアの担い手がいないなどの理由により、病院で生活している状態をいう。精神障害当事者であり、精神科病院からの退院を促進し、地域で精神障害者を支え合う活動をしてきた著者が、事例を紹介し、地域で暮らす重要さを説く。著者が聞き取った人々の暮らしは、困難さもあるが、人と交流する中で個性的に豊かになる。どのような人も受け入れる地域こそが暮らしやすい街なのだとしみじみ思う。(く)
大人のための社会科 未来を語るために
井手英策、宇野重規、坂井豊貴、松沢裕作 著
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- 大人のための社会科 未来を語るために
- 井手英策、宇野重規、坂井豊貴、松沢裕作 著
- 有斐閣1500円
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新自由主義とそれを後押しする主流派経済学。一方、知的な不寛容と反知性主義が社会に広がりつつある。こうした状況に危機感を抱く、専門や立場を異にする4人の社会科学者が、新しい社会科学の考え方と共通の知的プラットフォームの提供を目的に議論を重ね、あえて「教科書」という形でまとめられたのが本書である。
GDP、多数決、運動、歴史認識、希望など現代社会を語る上で避けて通れない12のキーワードを手がかりにしながら、日本の「いま」と「これから」をどのように考えていくべきかを平易な語り口で述べているが、提起される問題は根本的なものである。
選挙を議論する時には保守かリベラルかが注目されがちだが、元来民意を反映しきれない多数決に支えられた民主主義の機能不全と、〈私たち〉という視点の弱まりという点から捉え直していこうとする。
私たちが今後の社会運動を考えていく出発点として、広く議論されるべき一冊であろう。(ち)
「世襲制資本主義」ともいえる現状の中、著者は新しいお金との付き合い方を提案する。
本書ではドイツの社会的金融機関として、「貸すことと贈ることのための共同体」(GLSグループ:贈与を行う信託財団や融資を扱う銀行で構成)を取り上げる。同グループは1960年代のドイツ北西部ボーフム市でシュタイナー学校を設立しようとする市民運動の中で生まれ、理念は、採算の取れない公益事業を支える金融機関として、社会全体にいかに役に立つかだ。市民電力の先駆けとして有名なシェーナウ電力にも支援・協力した。社会的金融とは、自分のお金を社会のために役立たせたいという思いから生まれた実践だという。また、日本での事例も紹介する。
お金を社会のために、人と人をつなぐために利用する使い方を考える時だと著者は言う。その方法が寄付を元手にした助成(=贈与)だ。貧困が問題となっている今だからこそ、「お金」の活かし方を考えることが必要な時だろう。(ね)