2015年安保、総がかり行動 大勢の市民、学生もママたちも学者も街に出た。
高田健 著
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- 2015年安保、総がかり行動 大勢の市民、学生もママたちも学者も街に出た。
- 高田健 著
- 梨の木舎1800円
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朝から夜まで、時に徹夜で違憲の安保法制に反対する人々が国会前に立った。2年前のその日々を、ユニークだったコールや豊富な写真、声明を付け再現、「総がかり行動」共同代表の著者が解説。
○多数の市民の自発的な参加○非暴力抵抗闘争を貫けた○強行的採決後も運動が続いている○市民と野党議員の距離が縮まり○市民の望む形での選挙への道が開けた、など、その成果は豊富だった。これを可能にしたのが、「総がかり行動」という運動の軸となる新組織が安保法制の国会審議前に誕生していたことで、その意義は大きいと感じた。現政権への危機感が、これまで不可能だった組織(連合左派と共産党系)の共闘を可能にしたとのことだが、無党派の強みで両組織をつなげた平和運動家の著者の存在も大きかっただろう。
戦争する国にしたくないとの思いを抱く多くの人たちへの、エールとなる一冊だ。(束)
- マラス 暴力に支配される少年たち
- 工藤律子 著
- 集英社1800円
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メキシコの「ストリートチルドレン」に関わって26年の著者は最近、中米出身の子どもが増えていることに気づいた。かれらは強盗や殺しが日常の若者ギャング団「マラス」から逃げてきた。本書は、マラスが暗躍する国の一つで、世界一殺人発生率の高いホンジュラスのマラスと、そこに属する少年たちの素顔に迫ろうとするルポ。
牧師になったりラップでギャングに訴える元メンバーらと話すうち、かれらがストリートチルドレンと同じく「普通の若者」だと気づく。貧困で誰からも構われず、職もないが、マラスに入れば、畏敬の眼差しを得る。問題は「アイデンティティーの喪失」と著者。そして日本の子どもたちも同じと。
著者は長年の経験から信頼できる大人の存在が大切と考え、本書にも若者支援に奔走するNGO職員の熱意が描かれる。子どもへの信頼を基に、ギャングのレッテルをはがし、普遍的な大人の責任を導き出す。筆致にぐいぐいと引き込まれ、心打たれた。(登)
日本型ヘイトスピーチとは何か 社会を破壊するレイシズムの登場
梁英聖 著
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- 日本型ヘイトスピーチとは何か 社会を破壊するレイシズムの登場
- 梁英聖 著
- 影書房3000円
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日本は、先進国で唯一の“レイシスト天国”国家であり、欧米でも極右が政治空間に浸透し、それによる差別扇動が深刻であるが、その現象はむしろ「日本化」というべきものだ、と著者はいう。
「反レイシズム情報センター(ARIC)」代表の著者は、昨今のヘイトスピーチを最悪のレイシズム現象と捉え、欧米の規範と比較し、要因を丁寧に論じている。
ヘイトスピーチ頻発の社会的要因に、反レイシズム規範の欠如、「上からの差別扇動」、反“歴史否定”の規範の欠如と歴史否定の扇動、を挙げる。関東大震災時の朝鮮人虐殺、チマチョゴリ事件、朝鮮高校無償化除外、政治家の差別発言など、絶え間ないヘイトクライム、政権のあからさまなレイシズムが跋扈した背景に、東アジア冷戦構造、継続する植民地主義、平等原理なき日本型企業社会があることも指摘。レイシズムを止めるには、政治家の差別発言を許さず、基準となる歴史的事実を広めることが重要、に深く頷く。(り)