原発に抗う 『プロメテウスの罠』で問うたこと
本田雅和 著
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- 原発に抗う 『プロメテウスの罠』で問うたこと
- 本田雅和 著
- 緑風出版2000円
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朝日新聞記者の著者が、連載「プロメテウスの罠」の取材で出会った原発事故の被害者たちの抵抗と闘いを再構成した。
浪江町では、牛舎につながれたまま空腹で柱にかじり付いて息絶えた牛たちがいた一方で、「希望の牧場」は飼い主の避難後に残された牛たちに餌を与えて「事故の証人」として生きさせている。川俣町山木屋で花を育てて暮らした女性は、借り上げアパートでの暮らしにうつを発症。夫と一時帰宅した日、焼身自死した。残された夫は東電相手に裁判で損害賠償を闘い、謝罪を勝ち取った。双葉町役場前に掲げられた標語「原子力明るい未来のエネルギー」の考案者は、原発推進プロパガンダに乗った自分に身を震わせ、迷った末に積極的に体験を話し始める。100人に100の被害と苦悩と闘いがある。
避難者は意図的に分断や対立をさせられ、複雑な関係が深く潜行していると、著者は言う。原発が及ぼした罪深さに、目も耳も閉ざしてはいられない。(三)
雨ニモマケズ 外国人記者が伝えた東日本大震災
ルーシー・バーミンガム デイヴィッド・マクニール 著
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- 雨ニモマケズ 外国人記者が伝えた東日本大震災
- ルーシー・バーミンガム デイヴィッド・マクニール 著
- えにし書房2000円
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東京で震災に直面した2人の外国人記者が、外国人英語教師、保育園の調理師、南相馬市長など6人の被災者を中心に取材したこのルポは、2012年に米国で出版され話題を呼んだ。ようやく日本で出版の運びとなったのは、とある自主読書会で行われた翻訳が、偶然にも編集者の目に留まったためである。
行方不明の夫を探すため自ら消息不明者の受付ボランティアをする女性、孤立する南相馬の状況をユーチューブで訴えかける桜井勝延市長など、絶望的な状況でも決して立ち止まらない被災者らの姿を、「東北魂の化身」と紹介される宮沢賢治のの作品を引用しつつ、悲しみを煽ることなく冷静に伝える。
著者が驚くように、日本の構造は震災前と変わらないままだ。しかし楢葉町在住の被災者は「ただ前を見て、今の状態をよくするように努めるだけだ」と静かに語る。「雨ニモマケズ」その言葉の先に希望があると信じたい。(タ)
雨にうたれてみたくて 愛しの人工呼吸器をパートナーに自立生活
佐藤きみよ 著
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- 雨にうたれてみたくて 愛しの人工呼吸器をパートナーに自立生活
- 佐藤きみよ 著
- 現代書館1800円
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ベンチレーター(人工呼吸器)=人間の最期との偏見が今も強い中、日本で初めてベンチレーターをつけて介助者を入れた自立生活を、1990年から北海道で行っている著者の、これまでの著作を再構成したもの。著者は本紙1面にも登場(2008年12月15日号)、09年5月15日号から「きみよ流花色子育て」を連載(本書に採録)。
「あの雨にうたれてみたい」「恋をしたい」と始めた自立生活は過酷だったが、「ベンチレーターは眼鏡、カニューレ(挿入管)はピアス」を合い言葉に、町へ出て、重い障害があっても自分らしく暮らせる社会に向け行動し続けてきた。本書は宝石のような言葉にあふれている。調理ができなくとも「ボイスクッキング」、フィリピンの養女の子育ては抱っこができずとも、心で子育て…。
著者のきらきらした感性が、私たちの社会の歪みを詳らかにし、同時に人の心の豊かさを照らし出す。相模原事件後の今だから読みたい。ね、きみよさん。(登)