飾らず、偽らず、欺かず 管野須賀子と伊藤野枝
田中伸尚 著
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- 飾らず、偽らず、欺かず 管野須賀子と伊藤野枝
- 田中伸尚 著
- 岩波書店2100円
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植民地帝国となった明治以降の日本は、思想・表現の自由が奪われた「冬の時代」。そんな中、「大逆事件」(1910年)で処刑された須賀子と、関東大震災後に憲兵隊に虐殺された(23年)、14歳年下の野枝は、共に女性を縛る古い因習を打ち破り(恋愛も)、女の自由と解放を「無政府主義」によって実現しようとしながらも、生前は出会えなかった。個人の自由と国家の関係を長年問い続けた著者は、2人の生き様と思想を鮮やかに蘇らせ、須賀子から野枝への「見えないバトン」を描き出した。
天皇制国家において女の解放が最大の脅威だったことは、憲法改正の優先項目に24条が含まれている現在とも重なる。似た時代の空気と2人の「ひたぶる生」が、私たちを2人に出会わせる。女の家事労働と(男の)思想との矛盾など、語り合いたいことがたくさん。
「冬の時代」再来の今だから、表題のように「飾らず…」生きろ-。強烈なエールとバトンを2人からもらった気がする。(登)
- それでもパレスチナに木を植える
- 高橋美香 著
- 未來社2000円
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写真家の著者による、2011年から14年までのパレスチナ訪問記。
非暴力の抵抗運動で世界的にも有名になったビリン村と大虐殺のあったジェニンの2つの家族とつながり、通い続けてきた。
ビリン村は分離壁と入植地に囲まれ、抵抗運動はかつての勢いがない。しかし非暴力の運動は全土に広がっていると著者は書く。
トマトをもぎ、オリーブの実を拾い、コーヒーを飲み、会話をする日々。一方でイスラエル軍の銃に撃たれ、武装組織と疑われ拘束される兄弟たち。いくつもの死がある「日常」。
イスラエル軍の真夜中の捜索に、行かない言い訳を山ほど考えながら、それでも著者はカメラを持って外に出る。カメラを持つ外国人の存在が、軍の暴力に少しでも歯止めがかけられることを痛切に感じているからだ。
破壊された家のがれきを片付け、木を植え、鶏小屋を作り、そこで生きていこうとする人たちと共に著者もいる。伝えることに悩み迷いながら、また通う。(ね)
あごら 雑誌でつないだフェミニズム 全3巻
あごら九州 編
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- あごら 雑誌でつないだフェミニズム 全3巻
- あごら九州 編
- 石風社 各2500円
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1972年に創刊され、2012年に休刊となった、女性による女性のための情報雑誌「あごら」。本書はその総集編として、1、2巻には主宰した斎藤千代さんが書いてきた文章が、3巻には『あごら』で展開された取り組みごとのまとめが所収されている。あごらを中心に各地の女性が集い、あごらを冠する多くのグループができ、発信した。国内のフェミニズムの拠点の1つになったと言えよう。
斎藤さんの文章は闊達だ。1975年のメキシコ会議へ参加した顛末(キーセン観光に加担する代理店は断固拒否)、会議のルポや分科会開催の高揚感には胸が熱くなった。優生保護法改「正」の議論、男女雇用機会均等法(=「奇怪禁等法」)制定をめぐる取材はまさに史料。行動の人でもある。91年の湾岸戦争ではヨルダンやイラクへ。95年の阪神淡路大震災では現地で活動する女性たちを訪ねている。
徹頭徹尾、非戦と平和と平等を主張した斎藤さん。バトンをつないでいかなくては。(三)