海を渡る「慰安婦」問題 右派の「歴史戦」を問う
山口智美、能川元一ほか 著
|
- 海を渡る「慰安婦」問題 右派の「歴史戦」を問う
- 山口智美、能川元一ほか 著
- 岩波書店1700円
|
|
「歴史戦」と称し、日本の右派が歴史修正主義のメッセージを海外に発信する動きが活発だという。「歴史戦」というのは、米中韓が連携し、歴史問題で日本を叩こうと「戦い」を仕掛けていることに対抗せよ、ということであるらしい。著者の能川はその「歴史戦」の経緯を、海外在住の山口、テッサ・モーリス=スズキ、小山エミが右派の海外運動の実態を、詳細に報告・検証している。
各地の「慰安婦」碑建設に反対し「日本人がいじめられている」と右派が虚構をばらまく行動に、ヘイトスピーチと同質の主張を感じ身震いする。もっと怖いのは安倍政権以降、政治家・官僚が堂々と歴史修正主義を発信している点だ。
著者たちは、日本政府が右派の期待に応えようとすればするほど国際社会から非難されると分析するが、「国内の戦いでは完勝した」という右派の言い分にも注目。私たちの社会が「歴史修正主義者に呑み込まれてしまう危機」を警告する。事態は深刻だ。(う)
現代短歌の歌人である著者の作品とエッセイ、講演録などをおさめる。「神のパズル」は、巻頭に収められた核兵器や原子力を詠んだ2004年の連作100首だ。
東京生まれの著者は、結婚して宮城県・石巻に、そして震災当時は仙台に住んでいた。震災後ようやく席のとれた高速バスで、2歳の息子とともに新潟へと逃れ、京都、長崎へ移動、宮崎に落ち着く。
子どもへの放射能の健康被害の不安について、なかなか人前で話すことができなかったこと、仙台からの避難・移住は圧倒的少数者で、理解されにくい不安があったと、講演録「母子非難を『語る』ことの難しさ」で著者は率直に述べる。とはいえ、その不安や悩みを、お互いの立場を尊重しつつ丁寧に話すことができたのは、福島の母たちとだったという。
震災後に出た歌集の中で、震災と原発事故がどのように歌われているかの紹介もある。短歌を通して震災と原発を読むという、私には新しい体験だった。(ね)
ガザの空の下 それでも明日は来るし人は生きる
藤原亮司 著
|
- ガザの空の下 それでも明日は来るし人は生きる
- 藤原亮司 著
- 発行=dZERO 発売=インプレス1800円
|
|
イスラエル軍による激しい攻撃を受けると、国際社会でようやく注目を浴びるガザ。大規模な軍事作戦の終了後は、平穏に戻ったかのごとく沈黙の対象とされるガザ。1993年にイスラエルはガザ封鎖を開始し現在に至るまで、人々はフェンスと壁で囲まれた事実上の〈監獄〉の中で、爆撃があろうがなかろうが、精神的かつ物理的な圧迫とともに暮らすことを強いられてきた。
ジャーナリストとして98年にパレスチナ取材を開始した著者は、特に2002年以降、ガザの人々のさまざまな〈日常の生〉にこだわり、その姿を追いかけてきた。本書は、大規模な軍事攻撃にさらされたときのガザだけに焦点を当てたものではない。長期にわたる取材の中で出会った人々とのかかわりから見えるガザの生活を描きながら、残酷な封鎖を続けるイスラエルと、ガザへの〈援助〉という名の下で結果的にイスラエルの政策を支える国際社会の欺瞞を示した力作である。(砂)