安倍政権の後ろ盾、改憲勢力の中心といわれる「日本会議」とは何か、源流とされる「生長の家」に関連する右派運動や神社本庁の活動なども含め、主要な人物への取材を通して実態を描き出す。
彼らのテーマは、天皇制護持、戦後体制打破、「愛国的」教育推進、「伝統的」家族観固守、「自虐的」歴史観否定の5つだ。このための国民運動を、数十年にわたり一貫して繰り広げ、反復し、目指す国家・社会像を実現しようとし、相当効果をあげてきた。
一方で著者は「安倍政権的なもの」「日本会議的なもの」を許容するようになってしまった日本社会の変質にも注意を喚起する。宗教学者の島薗進さんは、「停滞期において不安になった人々は、自分たちのアイデンティティーを支えてくれる宗教とナショナリズムに過剰に依拠するようになる」と述べる。 憲法改正をめぐる動きは、民主主義の最後の砦をめぐるせめぎ合いだとする著者の指摘を、あらためて胸に刻みたい。(ね)
戦争交響楽 音楽家たちの第二次世界大戦
中川右介 著
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- 戦争交響楽 音楽家たちの第二次世界大戦
- 中川右介 著
- 朝日新聞出版900円
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偉大な音楽家も戦争や時の政権に翻弄された。ヒトラー政権の宣伝に利用されたフルトヴェングラー、出世のためにナチスに入党するもヒトラーに嫌われたらしいカラヤン、ユダヤ系のため亡命を余儀なくされたワルター、ファシズムと闘ったトスカニーニの4人の指揮者を中心に、第2次大戦をはさんで活躍したクラシック音楽家約100人が、戦争やファシズムにどう巻き込まれ、どう抵抗したかを時間軸に沿って記している。
ホロコーストの犠牲となった音楽家に心悼む。その時代、ファシズムへの対抗は苦難だったろう。フルトヴェングラーは「優秀な」ユダヤ人演奏家の排除に異議を唱えるなど、時折抵抗するが、「優秀でない者は排除していい」という論理の罠にはまる。芸術至上主義が政治利用され、芸術家の判断を誤らせるという著者の指摘は重要だ。
誰がいつどこでどんな曲を、の演奏記録が詳細。政権に否定された曲もある。演目の意味を考えながら読むのもおもしろい。(ん)
普天間・辺野古 歪められた二〇年
宮城大蔵、渡辺豪 著
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- 普天間・辺野古 歪められた二〇年
- 宮城大蔵、渡辺豪 著
- 集英社760円
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1996年の日米間の沖縄・普天間基地返還合意から20年。辺野古の基地計画は、規模も機能も大型化し、政府と県の対立はますます深まる。「この『歪められた二〇年』の実相と全体像を解き明かし、『普天間・辺野古問題』についての判断材料として世に問いたい」と、日米外交の研究者と沖縄タイムスの元記者が、20年間を通観し、政府・県双方の政策と思惑を丹念に追った。
大田元知事による政府への抵抗が、その後の県政に与えた影響。「最低でも県外」と言い、沖縄県民を期待させた民主党・鳩山首相(当時)は、なぜ「辺野古現行案」容認へ傾いたのか。県外移設を求めた仲井真元知事が政府との秘密裏の会談後、なぜ辺野古受け入れに豹変したのか…。著者らは「自民党の手練手管」「鳩山首相の過剰な政治問題化」と分析した。
翁長知事が政府交渉で強調したという「県民の魂の飢餓感」発言が、辺野古で抵抗を続ける人々の姿と重なり、胸に迫る。(三)