ルポ 母子避難 消されゆく原発被害者
吉田千亜 著
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- ルポ 母子避難 消されゆく原発被害者
- 吉田千亜 著
- 岩波書店760円
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原発が爆発して、大量の放射能が降り注いだ。そんなことが起こったら、誰だって、逃げる。小さな子どもがいれば、なおさらのことだ。命を守りたい、ただそれだけの思いで、建てたばかりの家も、家族も、仕事や慣れ親しんだコミュニティーも手放して、母親たちは子どもを連れて避難した。
中でも国が指定した避難指示区域「外」からの避難者は、筆舌に尽くしがたい辛酸をなめてきた。残してきた夫や親と離れての二重生活は家計を圧迫し、慣れない土地では偏見の目もあった。国や県は彼女たち自主避難者を「勝手に逃げた人たち」のように扱い、唯一の「被災者の証」だった住宅支援も、来春には打ち切られる。本書は、自主避難母子を地域で支え、活動を共にしてきた著者が、踏みにじられ続ける彼女たちの声を丹念に取材し伝えたルポルタージュだ。感情を抑えた筆致は、読む者を静かな怒りの目で見据えているかのようだ。これを「他人事」にできるのか?と。(岩)
ボクの韓国現代史 1959-2014
ユ・シミン 著 萩原恵美 訳
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- ボクの韓国現代史 1959-2014
- ユ・シミン 著 萩原恵美 訳
- 三一書房2500円
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韓国現代史に「ボクの」と付いたところがミソだ。著者は2002年から盧武鉉政権を支え、保健福祉相を務め、現在は執筆や講演で忙しいという人気作家。自分の生年1955年から現在に至るまでの韓国の激動史を一市民の立場から書いている。子どもの頃の光景や学生運動をしていた時の状況などが細かく書かれ、変化していく韓国社会の情景が目に浮かぶよう。個人史を織り交ぜた歴史書は堅苦しくなく一気に読める。
政治活動に関わってきた著者だけに、歴代大統領の政策の功罪がきちんと書かれ評価が一面的でない点がいい。発禁となった書物や放送禁止歌なども紹介され興味深かった。
2014年に起きたセウォル号の悲劇に触れ、特に若い世代の、他者の苦痛と悲しみへの共感能力に惹きつけられるという。市民の痛みに共感・共鳴する心がよりよい国をつくる原動力になるとの言葉に頷く。韓国現代史を楽しく勉強でき、読み物としてもおもしろい一冊だ。(じゅ)
- 福島原発作業員の記
- 池田実 著
- 八月書館1600円
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郵便配達員として定年を迎えた著者は、福島で働くことを決め、2013年秋から除染作業、翌年夏から「イチエフ」の収束作業に従事した。本書は、仕事の実態、同僚との交流、寮での暮らしなど、見たもの感じたものを克明に記したもの。『朝日歌壇』に掲載された短歌が随所に挟まれ、福島に対する著者の思いが伝わってくる。
ヒーローになりたい、というような奢りではなく、今後、何十年にもわたり何万人もの作業員が働かねばならないイチエフの実態を確認したい、という思いに突き動かされたのだろう。被ばくをともなう厳しい労働であるにもかかわらず、見合う賃金、雇用条件でないという問題もさることながら、重層下請構造が労働者の身の安全を危うくさせている状況が分かる。退職後に書かれたものだが、細かい状況説明や描写が生々しい。
今も約7000人が働いているが、箝口令が敷かれ、労働者の状況が見えにくい。本書が貴重な記録であることは間違いない。(塩)