- クラシック音楽と女性たち
- 玉川裕子 編著
- 青弓社2000円
|
|
本書はクラシック音楽における女性の音楽実践に注目することで、女性の音楽活動にどうジェンダー規範が作用したか、またいかに女性たちが豊かな音楽文化を築いてきたかを描きだす。
ファニー・メンデルスゾーンやクララ・シューマンなど、音楽史のなかで隠されてきた欧州の才能あふれる女性作曲家・演奏家を蘇らせるだけではない。明治の洋楽導入期の女性たちにも光が当てられる。初の音楽専門教育機関「音楽取調掛」第1回卒業生は3人とも女性。西洋音楽の手法を用いた初めての芸術作品は幸田露伴の妹・幸田延の「ヴァイオリン・ソナタ」だった。
この世界では女性が優位だったが、それも「歌舞音曲のたぐいは男子一生の仕事にあらず」という、男尊女卑思想の反映だった。著者らの筆は20世紀初頭、イギリスで設立された女性音楽家協会の演奏家・作曲家・音楽学者・批評家らの連帯した活動にも及び、女性と音楽と社会の濃密な関わりに目が啓かれる。(ま)
地方紙は地域をつくる 住民のためのジャーナリズム
梅本清一 著
|
- 地方紙は地域をつくる 住民のためのジャーナリズム
- 梅本清一 著
- 七つ森書館1800円
|
|
発行部数の低下、若者の新聞離れなど、いくつもの難題を抱える新聞。本書は、新聞の中でも地方紙のあり方、生き残りについて、富山県の北日本新聞で社会部や政治部長を務めた著者が説く。
神通川の「イタイイタイ病」、戦争末期の富山空襲、山から里に下りてきたクマの問題に迫る連載「沈黙の森」。地域の人々のために何を書くか、後世に何を残すのかを、著者は経験を基に考える。
新聞の未来も見つめる。引用した、元ニューヨーク・タイムス東京支局のM・ファクラーさんの「メディアのグローバル化は、埋もれていた小さくても良質なニュースが世界に広がる可能性を秘めている」という言葉。もし県紙が消滅したら、警察活動や地方行政の監視、地方の裁判の判決、住民の声を伝える術がなくなり、民主社会の崩壊につながりかねない、というジャーナリストの金平茂紀さんの言葉も紹介。まさに「地方紙は地域の民主主義の砦」だ。地方紙の苦労と喜びと魅力が伝わる。(三)
科学・技術の危機 再生のための対話
池内了、島薗進 著
|
- 科学・技術の危機 再生のための対話
- 池内了、島薗進 著
- 合同出版2000円
|
|
科学というと、つい専門家にお任せと思いがちだ。だが、それが原発事故や医療問題などを起こしているのではないか。この問題意識の下に宗教学者で原子力市民委員会にかかわる島薗進さんと、物理学者で軍学共同研究にも警鐘を鳴らす池内了さんとの対談が本書にまとまった。
成果主義にがんじがらめになっている科学者を取り巻く状況。成果主義によって研究費の配分が偏り、研究費を得るために軍事研究へと足を踏み入れざるを得ない状況も語られる。また、科学が持つ軍事と民生の両義性の危険性も指摘される。
科学とは本来、自然の営みを読み解くのが出発点であり、生活や人間の豊かな交わりを具体化し、精神世界や生活を豊かにするものだ。これを池内さんは「等身大の科学」と呼ぶ。
課題は大きいが、まずは著者らが言う「サイエンス・カフェ」など、身近な場で科学者と市民が語り合い、市民の科学を作っていくことを始めたい。(ね)