みるく世や やがて 沖縄・名護からの発信
浦島悦子 著/
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- みるく世や やがて 沖縄・名護からの発信
- 浦島悦子 著/
- インパクト出版会2300円
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本紙連載「ジュゴンの里に暮らす」でおなじみの著者の最新刊。米兵による少女暴行事件が起きた1995年から総合誌を中心に沖縄の現実を発信し続けてきた著者。5冊目の本書は、「基地NO!」を貫く稲嶺名護市長が誕生した2010年6月から直近までの記録。
民主党政権時代も、選挙やオール沖縄で県民の意思を突きつけても、嘘、奇襲、だまし討ちを執拗に繰り返す恥知らずな政府。
しかし、沖縄は負けない。積年の沖縄差別への怒りを胸に、体を張り、知恵を絞り、アジアの市民と手をつなぐ。特に、ブレないのが女性たち。普天間基地の上空に風船をあげて米軍ヘリを飛行させなかった「カマドゥ小たちの会」、著者らが結成した稲嶺市政を支える「いーなぐ会」などが、おばぁたちの後ろに連なる。
「みるく世(ゆ)」とは、琉球の言葉で「平和で豊かな理想の社会」。あきらめなければ、必ず「みるく世」が来ることを著者は確信している。(JO)
ソウル1964年冬 金承鈺短編集
金承鈺 著 青柳優子 訳
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- ソウル1964年冬 金承鈺短編集
- 金承鈺 著 青柳優子 訳
- 三一書房2200円
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韓国の「4.19世代(政権を崩壊させた1960年4月の学生運動)」を代表する作家と言われる金承鈺(キム・スンオク)は主要作品を20代で書いた。本書に収録の9編中8編までが20代に書かれたものだ。
「私たち、あまりにも老け込んでしまったようじゃありませんか」「私たちは今ようやく25ですよ」とは表題作での作中人物の会話だ。彼自身、日本の植民地時代に日本で生まれ、解放後の混乱で生じた軍の衝突で父を亡くし、朝鮮戦争では住まいを失い、執筆を始めた21歳の前年には反共軍事独裁政権が誕生している。若者を中心の命がけの民主化運動には容赦ない弾圧が加えられた。
金承鈺作品には、ストレートな政権批判や行動を促す勇ましい文言は登場しない。代わりに黒い霧や凍てつく風が重苦しい時代を表象し、そのなかで誰もが俗物になったと感じたり、息詰まる思いや屈折感を抱いている。生き惑うこの姿勢が同世代の共感を呼んだのだろうと想像された。(束)
第2次大戦中にはあらゆる美術家が戦争に協力的な作品を発表しており、画家たちも例外ではなかった。では、女性画家たちはどうか。そもそも人数が少ないうえに、画家のヒエラルキーの中で決して上位には立てず、「女流」は「二流」を意味していた時代。本書では著名な劇作家(長谷川時雨)を姉に持つ洋画家の長谷川春子を中心に、女性画家たちがなぜどのようにして戦争画を描いていったのかを紐解いていく。
戦争中に女性画家たちが描いたのは、社会が求める弱き女性を象徴する祈りの姿や、「軍国の母」をつくりあげる少年兵などだった。それに対し、銃後図ではあるが無力ではない女性たちを描いた大作『大東亜戦皇国婦女皆働之図』(内1枚は靖国神社遊就館で常設展示)を、著者は丁寧に読み解き、社会と女性画家の複雑な関係を示す。
婦人民主クラブ創設に関わった三岸節子の反骨と、桂ゆきの前衛手法は、時代と女性画家の可能性を示し、興味深い。(三)