語り継ぐ 戦争の記憶 戦争のない 平和な世界をめざして
日本婦人有権者同盟出版部 編・発行
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- 語り継ぐ 戦争の記憶 戦争のない 平和な世界をめざして
- 日本婦人有権者同盟出版部 編・発行
- アーバンプロ出版センター1800円
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現在、80歳、90歳と高齢になった日本婦人有権者同盟の会員たちが戦争を語り、つづった証言集である。日本婦人有権者同盟は敗戦の年の11月に市川房枝らが創設し、戦後の女性運動の中核を担ってきた。その会員らが国民学校の生徒として、高等女学校の学生として、若い女性教員としての体験をもとに描くのは東京大空襲、仙台大空襲、広島・長崎の原爆、沖縄戦など、家族や友達の命を奪った戦争の過酷さだけではない。行きずりの人に問われるままに工場の場所を教えただけで「スパイに通報した子」として警察の調べを受ける、兄の出征であっても「お国のために尽くすのは名誉なこと」と誇らしく思えたというマインドコントロールなど、戦争が塗り替えていく日常の実感である。
体力も記憶力も衰えるなかで、「戦争を二度と起こさないために、自分たちの経験を次代に渡さなくてはならない」という使命感で著された本書は、私たちに渡された貴重な記憶のバトンである。(ま)
施設で育った子どもの自立支援 子どもの未来をあきらめない
高橋亜美、早川悟司、大森信也 著
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- 施設で育った子どもの自立支援 子どもの未来をあきらめない
- 高橋亜美、早川悟司、大森信也 著
- 明石書店1600円
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ここ数年で、「社会的養護」という言葉は少しずつ知られてきた。さまざまな理由で、親などの保護者といっしょに育つことができない子どもたちの育ちを社会で支える仕組みであり、そのための場所を指す言葉でもある。そこで暮らす子どもたちの現実と、支える「支援者」の思い、子どもたちにとっての望ましい「自立支援」とは…。現場で実際にさまざまな困難に直面しつつ、子どもたちとともに苦しみ、困難を乗り越え、支援を続けてきた著者たちだからこそ語ることのできた提言がぎっしり詰まっている。
子どもたちが一人称で語る物語は、時にやるせなく、おとなの無力を思い知らされて打ちのめされそうになるが、そこから自力で這い上がる姿も見える。新人施設職員には、「かかわりのヒント」が具体的で役に立つ。施設に関わりのない人も、「子どもにとって学校や地域のもつ意味は計り知れない」とあるように、他人事ではない関わりを考えるうえで、示唆に富む内容だ。(順)
高卒女性の12年 不安定な労働、ゆるやかなつながり杉田真衣 著
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- 高卒女性の12年 不安定な労働、ゆるやかなつながり
- 杉田真衣 著
- 大月書店2500円
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都内の2つの高校を2002年に卒業した人たちを、卒業前、卒業3年目、5年目、さらに対象を絞り著者独自で10年目、12年目と調査した。学校から社会へ出たノンエリート女性たちがどのように生き抜いているかをまとめた書。
学校から社会への移行は、入試難易度の低位校といわれる学校を卒業した人たちには特に厳しいものとなった。進路が決まらないまま卒業し、その後はアルバイトや派遣労働に就く。身近にある選択肢の1つとして、さまざまな形態の性的サービス労働もある。
地域のつながりは生活基盤を磐石にするものとはならず、家族は時に自分を支えるどころか、自立を阻む要因ともなる。
それでも、一度細くなり切れた友人関係が時につなぎ直される。ゆるやかな関係性の中、彼女たちは自ら試行錯誤しキャリアを積んでいく。働き方、生き方の様相はそれぞれ。「漂流」ではなく、「航海」しているという著者の視線が温かい。(梅)