「慰安婦」問題の本質 公娼制度と日本人「慰安婦」の不可視化
藤目ゆき 著
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- 「慰安婦」問題の本質 公娼制度と日本人「慰安婦」の不可視化
- 藤目ゆき 著
- 発行= 白澤社 発売=現代書館2000円
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長く女性史研究に取り組んできた著者の、「慰安婦」問題に関する論文やエッセイ、講演録を基にした文章が収められている。元「慰安婦」たちの告発から今日までの20余年を回顧しながら、「慰安婦」問題の解決を探る書である。
この問題において、日本人「慰安婦」が排除されている事実に著者は目を向ける。近代公娼制度の延長線上に日本軍「慰安所」があり、戦後は米軍基地周辺に買春街がつくられたという連続性を指摘し、日本社会において「日本人慰安婦=公娼/売春婦だから補償の必要なし」という観念が是認されていることに対して厳しく批判する。「慰安婦」問題を妨げるものは、日本社会に深い根をおろす女性蔑視だという意見に強く同感する。
韓国では、元「慰安婦」のハルモニたちと米軍「基地村」の女性たちとが「女性の人権の闘い」で連帯しているという。「慰安婦」問題を政治・外交問題のみに矮小化させないためにも、広い連帯が必要だと感じた。(ぱ)
「辺境」の誇り アメリカ先住民と日本人
鎌田遵 著
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- 「辺境」の誇り アメリカ先住民と日本人
- 鎌田遵 著
- 集英社760円
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渡米して米国の先住民と暮らしたこともある著者が、長年の経験を日本の「辺境」と重ねて綴った書。福島原発事故の避難者、イルカ漁で生活する海の民、アイヌや被差別部落にも思いを馳せながら、時間をかけて取材した筆致に引き込まれる。
“根っこ”がない私には、生地や生業にこだわって暮らす人々の気持ちが測りかねていた。だが、「崩壊に追い込まれていった部族の歴史と、破壊されていく東北の港町、原発事故で土地を奪われる被災者のことが重なり、頭から離れなかった」「どれだけ汚染がひどくても、帰りたいという気持ちがなくなることはない」という先住民の言葉に合点。そう、米先住民も虐殺や同化政策に翻弄され、核施設建設や核実験で土地を汚染された歴史を持っていた。
一見豊かな消費生活よりも、生業を誇りに土地に根ざし、祭りや祈りを日常にした暮らしこそ、グローバルな生き方だと感じる。「辺境」の意味を示唆された。(三)
崖っぷち国家 日本の決断
孫崎享、マーティン・ファクラー 著
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- 崖っぷち国家 日本の決断
- 孫崎享、マーティン・ファクラー 著
- 日本文芸社1500円
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本書は、ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラーさんと元外交官の孫崎享さんが、日本の将来についての活発な社会的議論の一助となるようにと行った対談だ。
イスラム国やウクライナ情勢、日米の既得権益勢力、安倍政権の正体、沖縄独立などについて、国内マスメディアが黙殺して報道しない事実や、豊富な経験に基づく日本の外からの視線で語り合う。
安倍政権は集団的自衛権行使に突き進んでいるが、それはアーミテージ、ナイ、グリーンなど、米国の一握りの「ジャパン・ハンドラー」、すなわち安保利権の既得権益集団(「安全保障村」)の意向にすぎないことを明らかにして、日本のマスメディアの「常識」を覆す。さらに、日本でも武器や原発輸出に絡んで「安全保障村」ができつつあり、特定秘密保護法は、その権益に関連するのだろうと指摘する。
巻末にはアメリカ・リベラル派リストを掲載。沖縄の訪米団は誰かに会えているだろうか。(こ)