ケアのカリスマたち 看取りを支えるプロフェッショナル
上野千鶴子 著
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- ケアのカリスマたち 看取りを支えるプロフェッショナル
- 上野千鶴子 著
- 亜紀書房1600円
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「在宅ひとり死」という言葉をつくり、老後や介護研究でも有名な著者と、在宅介護・看護・医療のパイオニアである11人との対談集である。「おひとりさまのわたしはどうやって死ねるか?」という当事者と学者の目線で、“在宅業界”のプロに質問をぶつけているのがいい。プロたちは知恵と工夫で、地域に理想的なケアの根を生やしてきたことがよくわかる。同時に、家族に遠慮し、当事者が自己決定できない日本の特異さもみえる。家族にさえ迷惑をかけないですむなら、自宅でケアされ死にたいと思う人は多いのではないか。
今、厚労省は医療費抑制のため、患者を病院・施設から在宅へと誘導しているが、将来は受け皿のない在宅難民が増え、地域や資産の差で、受ける介護・看護に大きな格差が出るかもしれない。介護保険には問題もある。が、それで独居の看取りも広がっている。よりよく死ぬ(生きる)には、住民が地域でムーブメントを起こすことが必要と教えられた。(ん)
平和のための戦争論 集団的自衛権は何をもたらすのか?
植木千可子 著
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- 平和のための戦争論 集団的自衛権は何をもたらすのか?
- 植木千可子 著
- 筑摩書房820円
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著者の専門は国際関係論、安全保障論だ。本書では抑止力やグレーゾーン事態など、戦争を巡る多面的な問題を丁寧に解く。
著者の提唱する「リベラル抑止」とは、軍事力による抑止と相互依存を組み合わせる戦略を指す著者の造語だ。抑止を成功させるには、破壊による脅しだけではなく、経済や安全保障、外交的依存も含めた安心供与が必要だという。だが、安倍政権の言う「抑止」とは威嚇の強化ばかりで、これでは他国の不信を招くばかりだ。
また、集団的自衛権の行使に向かうのならば、安全保障の目的についての国内での幅広い議論、中国との関係改善と関係強化によるアジアにおける安全保障制度の確立、先の戦争に対する日本人による検証の3つが不可欠だとする。
尖閣問題について「尖閣は意図せぬ不測の事態から戦争に激化する危険がある。細心の注意が必要」とする意見は重要だ。
今、戦争を選ぶのか否か、踏み込んだ議論のために必読だ。(ね)
あなたに伝えたいこと 性的虐待・性被害からの回復のために
C・L・メイザー&K・E・デバイ 著/野坂祐子ほか 訳
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- あなたに伝えたいこと 性的虐待・性被害からの回復のために
- C・L・メイザー&K・E・デバイ 著/野坂祐子ほか 訳
- 誠信書房3600円
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「ロ子どもへの性暴力・性虐待が与える心身への深刻な影響やPTSD…。知られていることは多々あるが、子どもが陥る困難にこれほど寄り添う本があっただろうか。本書の原題は「この痛みはいつまで続くの?」。幼児性虐待の米国人サバイバーであるメイザーさんが、性暴力を受けた10代の女の子・男の子に向けて書いた。
加害者に近親者が多い故、子どもが抱える、罪悪感、自責の念、ちょっとした特別感、羞恥心…。被害申告しても、周囲の否認や非加害親が加害親をかばうなど、過酷な事実が待っている。人間不信、自分のセクシュアリティーの崩壊、依存症への逃避…。メイザーさんは徹頭徹尾、横に座ってこう語るのだ。「でも、あなたは悪くない。あなたは価値ある人」と。
性暴力を受けた子どもの臨床に携わる訳者らですら理解しきれていないことが多くあったそう。学校や図書館など、すべての子どもたちの手の届くところに本書を置こう。大人の責任として。(登)