女性たちの貧困 “新たな連鎖”の衝撃
NHK「女性の貧困」取材班 著
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- 女性たちの貧困 “新たな連鎖”の衝撃
- NHK「女性の貧困」取材班 著
- 幻冬舎1400円
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NHK報道局が制作した標記のテレビ・ドキュメンタリー番組「NHKスペシャル」などの内容に、放映できなかった部分を追加した迫真のルポである。取材陣を突き動かしたのは、バイトと学校、家族の世話に疲れ果て、「理想はないですね、基本。…普通の生活をするのが理想ですかね」とつぶやく19歳の通信制高校生の言葉。父親を亡くし、病弱の母親を家事でも支え、不登校の妹を気遣い、早朝のコンビニのバイトで自分の生活費をまかなっていた。取材班は「これほど真面目に生きる若者が報われる社会構造にならなくてはいけない」という強い思いを原動力に、日本社会の“今”を解き明かそうとする。
取材は、ネットカフェに母、妹と寝泊まりし、「30歳まで生きたら、もうそれでいい」と言う16歳の少女、いまや「最後のセーフティネット」といわれる性風俗産業の現場にも及ぶ。雇用・家族・社会保障の崩れが若い女性から希望をはぎとっていくありように身が震える。(ま)
ジャスミンの残り香 「アラブの春」が変えたもの
田原牧 著
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- ジャスミンの残り香 「アラブの春」が変えたもの
- 田原牧 著
- 集英社1500円
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「ジャスミン革命」と名付けられた「アラブの春」の残したものは何か。定点観測のため、年に1度、エジプトのカイロに、シリアのダマスカスに著者は出かける。タクシーや街角の茶店で出会う無名の人々や旧知の人々の声から、「『革命』は徒労だったのか」という宿題を解いていく。
エジプトでは今、軍政となり旧独裁政権派が復活している。だが、「徒労だった」と言ってしまうには、あの時タハリール広場で「浮かび上がった社会の奇跡とその再現の可能性をあっさりと捨ててしまうことへの逡巡」がある。人は自分が無力な存在ではないと気づき、「エジプト人は変わった」と人々はいうのだ。
本書は「革命」後のすぐれたルポであるとともに、日本で私たちがどう生きるべきか、日本社会をどう転換していくべきかをも示唆する。
エジプト・ムバーラク政権の崩壊から現在の軍政成立までの経過もわかりやすく書かれている。(ね)
『母性をひらく』など、母性論や女性の自立など、長く女性の問題を書いてきた著者は、昨年5月、肺がんで亡くなった。本書は、2009年に肺がんと診断されてからの日々や、子どものころから罹った病をひとつひとつ思い起こし、つづった遺作だ。
さまざまな病を経験し、30代後半の時、漢方医に「あんた、よく生きてるねえ」と言われ、外見は元気そうでも、体は不調だったことをやっとわかってもらえて、うれしかったという。「弱いのは自己管理ができないから」と言われた元気が出ない人に向けて、「病は貴重な財産」だからと赤裸々に語る体験談は、具体的で役立ち、励まされる。「肺がんで長くないんです」と言う「葵の印籠」でおねだりするエピソードも笑えた。
余命を告げられ、自分の人生を肯定したいともがき、解放されていく過程が胸に沁みる。病気はつらいことも多いが、人生を見つめ直せるいい機会にもなるのかもしれない。(ら)