- ひみつの王国 評伝 石井桃子
- 尾崎真理子 著
- 新潮社2700円
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石井桃子(1907~2008年)はなつかしい名前だ。子どもの頃夢中で読んだ『クマのプーさん』の訳者であり、『ノンちゃん雲に乗る』の作者だ。
この本は、石井桃子がいかにして児童文学者と呼ばれるようになり、どのような生涯を送ったのかを、読売新聞編集委員の著者が、200時間に及ぶ本人インタビューと膨大な資料を基に書いた、ずしりと重い評伝だ。
作家の菊池寛を始め、多くの人との出会いがあったが、とりわけ女性の友情を大切にした人だった。文藝春秋社の同僚で自伝的長編小説『幻の朱い実』のモデル小里文子、その同級生の水澤耶奈(元婦人民主新聞編集長)。水澤宛ての石井の100通を超す手紙もこの評伝の重要な資料になっている。
石井が編集・翻訳・創作した児童向けの本は300冊にも及ぶ。巻頭言「大人になってからのあなたを支えるのは、子ども時代のあなたです」さながらに子どもに夢を与えた生涯だった。(晶)
- 絵本学講座1 絵本の表現
- 中川素子 編
- 朝倉書店2500円
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「絵本はメディアである」と編者は言う。文や絵など情報や記録がつまったメディアであり、多様な伝達やコミュニケーションとして機能するメディアである、と。そのように絵本を捉えれば、ただ「面白い」と思う絵本が立体的になり、隠れた魅力も見える。本シリーズは児童文学や保育学の視点を超えて、絵本のメディア特性に迫ったもので、本書は「世界認識」「時間表現」「視覚表現」「ブック・アート」「インタラクティブ」などの視点で絵本を読み解いたもの。
小さないちごが宇宙に浮かぶ惑星になる『いちご』は、宇宙と自然を見事につなげ、食べたいわしがやがて子どもの骨となる『いわし』は、目には見えないものの存在を絵と文がそれぞれに語る。また美術家の田島征三が「絵本を芸術表現として使う」と言うように前衛アートの手法が取られたり、ページをめくる行為の歓びを喚起する紙の素材を使ったり。
絵本の持つ普遍の魔力と、無限の可能性に魅了された。(登)
活き逝き術のススメ ニューシニアは語る
藤森洵子、須之内玲子 著
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- 活き逝き術のススメ ニューシニアは語る
- 藤森洵子、須之内玲子 著
- 現代書館1600円
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介護が必要になっても、自分の生活は自分のコントロール下におきたい。そんな当たり前の望みを実践する人に話を聞きながら探る、介護される側からの「明日の介護」術。
若い頃に薬の副作用に苦しんだことがある73歳の男性は、健康診断も含め、西洋医学に頼らず、家には体温計すら置かない。肺炎から要介護になったが、退院後は介護認定を受けずに一人で暮らしている。好きなものを作って食べ、関心のある講演を聞きに行き、家族に任せるところは任せる。
事故で身体障害者1級、要介護3になった71歳の男性は、職員が高齢者を「バカ扱い」することが不満だ。映画が趣味で、インターネットを利用する。デイケアのプログラムはつまらないが、社会性も必要なので、デイケアに行くのだという。
男性、比較的裕福な高齢者が多いけれど、力まず、自然体のニューシニアの方々は、よき茶飲み友達になれそう。(矢)