時間という贈りもの フランスの子育て
飛幡祐規 著
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- 時間という贈りもの フランスの子育て
- 飛幡祐規 著
- 新潮社1400円
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日本では自然育児の本は数あれど、幼児になると、いかに「頭のよい子」を育てるかという本が多くないか。著者は18歳でフランス・パリに留学してから滞在歴40年。20歳の息子をフランスで育てた中での子育ての極意や教育制度のあり方などを記した 。
著者の方針は「自分で考えられる人間に育てる」。テレビゲームをしない、テレビを漫然と見ない。理由は「世の中には面白いものがいっぱいあるから」。自然に触れさせ、映画、演劇、絵画、オペラを鑑賞して、感想や批評を伝え合う。名作文学を読み聞かせし、日常に静けさを取り戻す。子どもにはたっぷり想像する「退屈な時間が必要」という。またフランスの国語、哲学の教育の徹底ぶりにも驚く。評価主義の弊害はあるが、早くから文学を全編読み、思考力と批判力を養う教育には、革命の歴史背景と教育者の熱意がある。それに迫るのは著者ならではだ。
ああ、日本は何から始めれば…と嘆く前にテレビを消そう。(登)
過去は死なない メディア・記憶・歴史
テッサ・モーリス=スズキ 著 田代泰子 訳
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- 過去は死なない メディア・記憶・歴史
- テッサ・モーリス=スズキ 著 田代泰子 訳
- 岩波書店1360円
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歴史学者の著者は、今は“歴史の危機”が生じていると、メディア―小説、写真、映画、漫画、インターネットから具体例を取り上げ、それらがどのように歴史を解釈し、人々に感情を抱かせているかを読み解いている。
国家と男性性交能力の危機を連想させる小林よしのりの漫画や、凄惨な戦争写真を“演出”と主張し、出来事にも疑義があるようにほのめかす歴史修正主義者たちへの批判などが鋭くおもしろい。著者は「社会的・空間的位置を異にする他者の見解に関わることで、過去についての自分の理解をかたちづくり、またつくりなおす、という継続的な対話」―“歴史への真摯さ”を説く。
今、世界中で起きている紛争、国同士の緊張関係は、すべて“歴史の理解”の問題が介在している。本書は2004年刊行の文庫化だが、著者が提起するメディアを読み解く目と、歴史と真摯に向き合うことの必要性は、10年経った今、ますます我々に迫ってくる。(ぱ)
自立生活運動史 社会変革の戦略と戦術
中西正司 著
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- 自立生活運動史 社会変革の戦略と戦術
- 中西正司 著
- 現代書館1700円
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著者は、上野千鶴子さんの『当事者主権』(岩波新書)の共著者。
運動体は数あれど、事業体と運動体が一体となった例は少ない。障害当事者が介助サービスを提供する事業主体となり、同時に権利擁護や行政交渉も行う「障害者自立生活センター=CIL」。東京都八王子にCIL「ヒューマンケア協会」を立ち上げ、自立生活運動の戦略と理論の支柱であり続けてきた著者が、運動の前夜から今日までを語り尽くしている。
ニーズを最もよく知る当事者が、あるべきサービスのモデルをまず作り、データを示し、そこに行政が予算を付ける。障害当事者が制度設計への影響力を失わないためにも、介護保険との統合に断固反対し、障害者の介助に独自の資格制度やサービス類型を制度化してきた。また臨床心理士や介護保険内のケアマネを排し、当事者のピアカウンセリングや障害者ケアマネを独自に制度に組み込む等々、徹底した闘いぶりは、他の当事者運動にも参考になるだろう。(道)