この身が灰になるまで 韓国労働者の母・李小仙の生涯
呉道燁 著 村山俊夫 訳
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- この身が灰になるまで 韓国労働者の母・李小仙の生涯
- 呉道燁 著 村山俊夫 訳
- 緑風出版2000円
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「誰よりも独特な自分の香りを持つ人」、それでいて「世の人々に溶けこむことのできる人」。読了すれば、この意味がよく分かる。
韓国では知らない人はいないが、1970年、ソウルの平和市場で全泰壹(チョン・テイル)は若い労働者たちの苛酷な労働環境改善を求め焼身抗議した。彼の「母さん、道を作って」という遺志を継いだ毋・李小仙(イ・ソソン)は、投獄、拷問にも屈せず、「差別なき世の中」のため、労働者たちと一緒に泣き笑いしながらたたかった。差別に苦しむ人がいれば飛んでいき、差別した人間がどんな権力者でもひるまず抗議し、腹をすかせた人がいればごはんを食べさせ、常に人々の切実な要請に誠実に応えた。いつも語っていた「分裂より団結」「生きて闘え」の言葉は今一層重い。
韓国の労働運動・民主化運動の精神的支柱となった彼女の肉声をこんなにも生き生きと記録できたのは、2年間暮らしをともにし聞き書きした著者の執念だろう。『全泰壹評伝』も併読を!(風)
フクシマ以後の思想をもとめて 日韓の原発・基地・歴史を歩く
徐京植、高橋哲哉、韓洪九 著 李昤京ほか 訳
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- フクシマ以後の思想をもとめて 日韓の原発・基地・歴史を歩く
- 徐京植、高橋哲哉、韓洪九 著 李昤京ほか 訳
- 平凡社2800円
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韓国の歴史家(韓)、在日の作家(徐)、日本の哲学者(高橋)の3人が、3・11後の福島を皮切りに、韓国の陜川、ソウル、済州島、東京、沖縄で行った連続座談会の記録が収められている。異なる立場からの対話はさまざまな問題に対し深い示唆を与えてくれる。
被爆国であり原発大国である日本。日本でも韓国でも知られていない朝鮮人被爆者の存在、震災対応・被災者支援から外される在日韓国・朝鮮人。昭和天皇の原爆投下後の広島訪問と、現天皇・皇后の3・11後の被災地訪問。沖縄と済州島の基地問題…これらの問題が密接に絡み合っていることを3人は私たちに突きつける。
原発事故の責任の取り方を見ても、戦後責任を日本はいかにうやむやにしてきたか、そのツケが回ってきているのではないか。原発、基地など諸々の問題解決に突き破らなければいけない壁は多々あるが、3人が唱える「東アジアの平和への努力」が解決への光かもと本書を読み、つくづくと考えた。(ぱ)
九月、東京の路上で 1923年関東大震災 ジェノサイドの残響
加藤直樹 著
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- 九月、東京の路上で 1923年関東大震災 ジェノサイドの残響
- 加藤直樹 著
- ころから1800円
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東京・新大久保出身の著者は、町をかっ歩するヘイトスピーチから、90年前の関東大震災時の「朝鮮人虐殺」を想起し、当時の証言や記録を丹念に集め、ブログを開いた。本書はそのまとめ。
震災直後、「自警団」が「朝鮮人が井戸に毒を流した」などの流言飛語を鵜呑みにして、各地で朝鮮人を捜しまわり、集団で殴る蹴るの暴行の上虐殺。死体を川などに捨てた。被害者には中国人も日本人も含まれていた。一連の虐殺には警察も加担した。資料によると警察はこの機に乗じ、独立運動や労働運動の活動家を狙った。中国人・王希天も意図的に狙われ、彼の殺害は徹底的に隠蔽されたという。また当時の新聞は、震災の数年前から頻繁に「不逞鮮人の陰謀」を書き立てていた。現代との共通点を考えると背筋が寒くなる。
著者は有名・無名の人々の証言に、調査した事実を重ねて、広い視野で実際に見たかのように丁寧に語る。今からでも遅くない。ここから学ぼう。(三)