- 歴史物語り 私の反原発切抜帖
- 西尾漠 著
- 緑風出版2000円
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「原子力資料情報室」共同代表で、「はんげんぱつ新聞」編集長の著者が、自身の生い立ちと原発の歴史を絡めて軽妙な語り口で綴る。書名は、制作に著者も協力した映画から。
歴史と言っても、原子炉の開発とか、政府・電力会社のかけひきのような枠組みだけでなく、〈原発輸入とサケ缶の関係〉、73年の電事連・電力危機キャンペーン〈たった今、電気がとまったら〉というコピー、原発予定地住民を分断する破壊工作など、著者ならではの話も興味深い。そしてその歴史の中の自分も想起され(私は新潟・巻原発の住民投票の結果を旅先で聞いたことが印象的)、さまざまな地域で行われている反対運動が身に迫る。
採録の“原発おことわりマップ”によると、現在の原発立地地域より、建設を阻止した地域のほうが多い。また、連日院内集会が開かれている背景には、過去の失敗からの学習があるなど、運動の歴史にも元気づけられた。(三)
「法の番人」内閣法制局の矜持 解釈改憲が許されない理由
阪田雅裕、川口創 著
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- 「法の番人」内閣法制局の矜持 解釈改憲が許されない理由
- 阪田雅裕、川口創 著
- 大月書店1600円
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安倍政権が解釈改憲で容認したい集団的自衛権は、歴代内閣が内閣法制局の見解にのっとり「憲法上行使できない」としてきた。内閣法制局は政府のすることが憲法から逸脱しないようにチェックする、立憲主義の監視役。本書は、小泉政権の後半にその長官だった阪田雅裕さんに、法制局の仕事ぶりや憲法9条解釈の理論や経緯を聞き取ったもの。聞き手は自衛隊イラク派遣違憲訴訟の川口創弁護士だ。
テロ特措法や自衛隊のイラク派遣などは憲法9条の形骸化だと感じる人は多いだろうが、内閣法制局はこれまで、自衛隊の海外派遣についても「武力行使」と一体化しないよう、「非戦闘地域」に限定してきた。9条の「枠内」での緻密な理論構築に腐心してきたのだ。その理論と、川口さんの現状認識の違いは本書の読みどころだ。
とはいえ法制局の論理でも認められない集団的自衛権。安倍政権は「立憲主義」を破壊しようとしているのがよく分かる。(登)
- 故郷の川を遡る鮭の背に
- 富盛菊枝 著
- 影書房2000円
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幼い子も死を感じ取る力はあるという。児童文学者の著者は、自分もいつか死ぬという深い溝から浮上してきた時、まっすぐ大地へ降りている死という小さなおもりがついていた気がすると語る。
著者が育った北海道・室蘭の海や森、谷の豊かさに包まれて遊んだこと、砲弾の中を逃げ回った戦争経験などを、その時の自身の感情とともに生き生きと綴っている章は、ぐいぐい引き込まれていく。時代も場所も異なるはずだが、似たような戸惑い悲しさ、喜びや夢中になった思い出がよみがえる。そんな子どもの頃の感覚の世界が、著者の言う、故郷でもなく、原点でもない「自分の内部が目覚めてくる場所」なのだろうか。
アイヌ神謡集の編訳者・知里幸恵や、東北や北海道などの旅行記を残したイザベラ・バードの墓を訪れ、彼女たちの闘いを感じ取る。今、多くが剥ぎ取られてしまったその土地の精神を再び探りだすため、このエッセイのような身を浸せる言葉に出会いたい。(み)