性と法律 変わったこと、変えたいこと
角田由紀子 著
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- 性と法律 変わったこと、変えたいこと
- 角田由紀子 著
- 岩波書店820円
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弁護士として女性の依頼者に寄り添い、数々の事件に関わってきた著者が、「福岡事件」などの事例をもとに、鋭くも共感をもったまなざしで、法と女性を見つめる。
法が保護するのは個人ではなく、男社会の社会秩序。戦後、「性的自由」も男女平等になったはずなのに、いまだ女には「貞操」が求められる。性暴力犯罪が親告罪であることは不当で、女性の意思が尊重されていない、と冷静に憤る。「そもそも、労働や勉学の場で、なぜ、女性は性的な存在としてしか扱われないのか」。力関係が幅を利かす、社会の仕組みの問題だと指摘する。
初めての性暴力事件で持った違和感を胸に、セクハラ事件の歴史とともに歩んできた著者の視線は、あくまで女性運動にある。東京強姦救援センターの活動や、忘れもしない1987年の「西船橋事件」など、女性たちの涙とため息から、著者は多くを得た。本書に記された闘いの高揚感とあきらめない気持ちは、未来への熱いメッセージだ。(三)
日米同盟と原発 隠された核の戦後史
中日新聞社会部 編
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- 日米同盟と原発 隠された核の戦後史
- 中日新聞社会部 編
- 東京新聞1600円
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被爆国が、なぜ原発大国になったのか、3・11後もなぜ原発がなくならないのか。本書は米国の膨大な外交資料や、日本の政治家、官僚、科学者、電力会社幹部100人以上の証言から、その全貌を明らかにした連載を収めた。
原爆の惨状を知るほど、被爆者を含む国民は「原子力の平和利用」(原発)に惹きつけられた。しかしそれを唱えた米・アイゼンハワー政権は、東西冷戦を背景に、「原子力の平和利用」を隠れみのに日本を含む西側陣営に核兵器を配備する意図だったのだ。60年安保闘争も原発には反対できなかった。中国の核実験成功以降は、日本も原発技術を利用した「潜在的な核保有」を密かに検討。日米同盟の中で、原発は核兵器を隠すために存在し、さまざまな人の思惑が原発大国へと拍車をかけた。今は溜まり続けたプルトニウムが、米国にも危険視され、原発に軍事秘密のベールがかかる。
今後の脱原発運動の議論は安全保障も視野に入れねば。(登)
ルポ 精神医療につながれる子どもたち
嶋田和子 著
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- ルポ 精神医療につながれる子どもたち
- 嶋田和子 著
- 彩流社1900円
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読みながら愕然とした。私自身、向精神薬の服用経験があり、周りを見ていても副作用の重大性は感じていたが、子どもたちがここまで薬害の危険にさらされていることには無知だった。
著者がこの問題に関心を持つきっかけは、友人の話。「息子が3年も精神病院に通院し、薬もたくさん飲んでいるがいっこうによくならない。家族会に出ているが、よくなった人は1人もいない」。著者は「精神医療の真実 聞かせてください、あなたの体験」というブログを立ち上げた。寄せられた数多くの事例を検証し、国内外の調査結果や文献を調べ上げ、何人もの医者にインタビューしてまとめたのが本書。
「早期発見」「早期治療」は誰のため? 確かなエビデンスが得られていない精神医療分野でなぜこれほど多くの病名がつき、新薬が次々と開発される? “原子力村”に似た医療界の構造が、浮かび上がる。
薬への盲信を捨てて、いま学ばなければ手遅れになる。(JO)