あきらめない映画 山形国際ドキュメンタリー映画祭の日々
山之内悦子 著
|
- あきらめない映画 山形国際ドキュメンタリー映画祭の日々
- 山之内悦子 著
- 大月書店2000円
|
|
1989年から、知名度を上げながら隔年で開催されてきた山形国際ドキュメンタリー映画祭。初回から通訳者として関わってきた著者が、監督など関係者や映画祭の魅力を熱く語っている。
カナダ在住25年以上、先住民問題などの通訳経験を持つ著者の見る目は真摯であり、鋭い。“弱者”を撮った受賞作でも自分が違和感を持つ作品にはその理由を執拗に探り、『311』を撮った森達也監督らとの対談ではカメラの暴力性などについて食い下がる。こうしたやりとりから関係者の珠玉の語りが生まれている。森監督の(絶望の手前ぎりぎりだけど)「『世界はもっと豊かだし人はもっと優しい』の思いは変わらない」等々…。
映画祭紹介本と思ったら大間違い。おもしろいルポと感じたら、崔洋一監督が「優れたドキュメンタリー映画そのものだ」と帯に書いていた。この映画祭にはドキュメンタリーを心底愛する人が集まっている。地方での開催も独特だ。ヤマガタへ行かねば!(り)
障害のある子の親である私たち その解き放ちのために
福井公子 著
|
- 障害のある子の親である私たち その解き放ちのために
- 福井公子 著
- 生活書院1400円
|
|
障害のある子の才能を親が伸ばし、書道家に、音楽家になった…世間にあふれる「感動物語」が隠蔽するのは、日本の貧しい福祉制度と、母性主義、何かを成し遂げた者だけが価値があるとする優生思想。本書はそれを内面化している自分に気づき、解き放ち、社会を問うた、障害者の親の物語。
徳島県の家父長制の根強く残る、とある農村地帯で「長男の嫁」になった著者の、2番目の息子には重い自閉症と知的障害があった。「障害のある子は親が抱えて当たり前」の視線の中、渦巻く「なぜ」と苦しさを、溢れるままに言葉にし、障害当事者運動やジェンダーに出合い、親同士のセルフヘルプ活動を行うようになった。そして親が自分を大切にしてこそ、障害のある子を1人の人間として尊重し、それが社会を変える力強い活動につながると悟る。
障害者の親にこそ自己解放と当事者運動が必要という、当然のようで斬新な視点に、新しい運動の息吹を感じた。(登)
誰もが難民になりうる時代に 福島とつながる京都発コミュニティラジオの問いかけ
宗田勝也 著
|
- 誰もが難民になりうる時代に 福島とつながる京都発コミュニティラジオの問いかけ
- 宗田勝也 著
- 現代企画室1000円
|
|
2004年、京都市中京区のコミュニティFMで〈難民ナウ!〉の放送が始まった。コンセプトは「難民問題を天気予報のように身近なものに」。著者は立ち上げから関わり、代表を務める。取り組みは、カフェトーク、アート展など様々なイベントへと広がる。〈難民ナウ!〉は「支援する/される」の2分法になりがちな「難民問題」を、「難民(を取り巻く私たちの)問題」ととらえてきた。福島原発事故を経て、難民にいつでもなりうる存在としての私たち(潜在的難民)の問題となった。
日本では政府、電力会社、マスメディアが「見せまいとする力」の行使によって「秩序と安定」を維持してきた一方、私たちにも「見まいとする力」がある。この2つの力に抗うのは容易ではないが、求められているのは大きな運動に参加する覚悟でなく、日常生活の中で「自分らしく」具体的にできることを考えることだと著者は言う。天気予報のように継続的に。(い)