- 醤油と薔薇の日々
- 小倉千加子 著
- いそっぷ社1600円
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大学教員を経て、ジェンダー、セクシュアリティー論から、テレビ、芸能、日本の少子化問題に至るまで執筆、講演活動を行う著者が、1993年から2008年までに書いたエッセイを収録。ほっこりとしたエピソードから、女たちの現実的な欲望や男たちの愚かな願望をえぐり、平易だが切れ味のいい言葉で調理するものまで多種多様。老若問わず、女たちへの限りない愛情が根底にある。
中でも本書タイトルにもなった「醤油と薔薇の日々」は20年前のものだが古さを感じない。「あとがき」にもあるが、90年代の安田成美のキッコーマン醤油のCMと、2000年代の檀れいの「金麦」のCMの共通性に少子化の隠れた原因があるとの指摘は秀逸。
この20年、貧困と格差がはびこった。女たちの絶望と諦念と、だからこその専業主婦願望と、結婚後も続く「日常(醤油)を薔薇化する」労働と…。著者はそんな女たちのため息を静かに受け止めてきたのだろうと思う。(登)
翻訳がつくる日本語 ヒロインは「女ことば」を話し続ける
中村桃子 著
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- 翻訳がつくる日本語 ヒロインは「女ことば」を話し続ける
- 中村桃子 著
- 発行=白澤社 発売=現代書館2000円
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著者は “ことば”とフェミニズムに関してピカイチの研究者。サブタイトルに惹かれて読んだ。
現代人の私たちは女ジェンダー満載の語尾や男ジェンダーバリバリなことばづかいをしているか?だが、映画のセリフを見てほしい。不自然な会話が山ほどある。「強い」ヒロインも女ことばだ。
確かにかつて、白人女性・男性、黒人、中国人用のセリフの妙な言い回しがはびこっていた時代もあった。これは、ある属性に基づいたことばを使う「本質主義」でなく、あることばを使うことでアイデンティティーを作り上げる「構築主義」で、そこには差別や偏見が含まれていたと、著者は指摘する。
日本は翻訳が発達しているという。不自然な日本語であっても、非日本人専用の翻訳語として許容されてきた。そして、翻訳こそが「女らしい」「男らしい」日本語をつくり、維持されてきたと著者はいう。翻訳者のジェンダー感覚も問われるべきなのか。興味深い議論が投げかけられた。(三)
戦後史の汚点 レッド・パージ GHQの指示という「神話」を検証する
明神勲 著
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- 戦後史の汚点 レッド・パージ GHQの指示という「神話」を検証する
- 明神勲 著
- 大月書店3200円
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冷戦の激化に伴い米国をはじめ世界中を吹き荒れた「赤狩り」。日本では戦犯の公職追放が解除される一方、共産党支持者であるとして約3~4万人が職場を追放されるレッド・パージが強行された。
この本は、占領期教育史が専門である著者がレッド・パージ犠牲者の名誉回復運動と出合い、裁判の支援を行う中で生まれた。
関連資料を検討していくことで、流布されてきた超法規的なGHQの「指示」という説は「神話」に過ぎず、重大な人権侵害であることを認識していたGHQ、日本政府、企業、労働組合が相互に責任を転嫁しあう中で、いわば共同正犯としてレッド・パージが実行されていく過程が明らかにされていく。
どのような過程で政治的決定が行われたかを検証可能にすることは、レッド・パージのような人権侵害を再び繰り返さないために欠くことのできない要素である。国際関係の緊張を理由に戦争可能な国家をめざす現在の政治状況の中、このことの持つ意味は重い。(ち)