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ふぇみんの書評

フィリピンの小さな産院から

冨田江里子 著

  • フィリピンの小さな産院から
  • 冨田江里子 著
  • 石風社1800円
 フィリピンにある最貧困地域で、2000年から無料診療の小さな助産クリニックを開いた、助産師の著者による奮闘記。この地域で「自然なお産」をしているだろうと思いきや、地元の助産師や産婆は分娩第1期からいきませ、お腹を押し、子宮口を手で開けるなどし、知人の赤ちゃんは死亡。一方、病院は貧困層の治療を拒否するか、ぞんざいな医療処置をするのみ。著者はこの地のものを使い、女性にも赤ちゃんにもやさしいお産を導き、寄り添う。使うのはトラウベ(胎児の心音を聞く木の筒)と血圧計だ。ようやく生まれてきた赤ちゃんを待ち受けるのが、里子か売りに出される運命ということも。貧困ゆえの選択だ。著者は子どもの幸せを祈り、届く言葉と方法での家族計画の必要性を痛感する。つらい、厳しい仕事ながらも、周りに「大きな大きな幸せのエネルギー」が溢れているから続けられるのだろう。矛盾だらけだが温かい、大きな生命力に出会える本だ。(登)

一冊の本をあなたに 3.11絵本プロジェクトいわての物語

歌代幸子 著

  • 一冊の本をあなたに 3.11絵本プロジェクトいわての物語
  • 歌代幸子 著
  • 現代企画室1800円
 絵本編集者の末盛千枝子は岩手県八幡平で3.11の大きな揺れに襲われた。戦火や災害のもと、子どもたちは誰かの膝のうえで絵本を読んでもらうときだけ、穏やかな気持ちを取り戻せるという話を聞いていた末盛が、「絵本を送りたい」と3月19日に知人にメールを出したことから、「3.11絵本プロジェクトいわて」は始動した。総計23万冊の絵本が盛岡に送られ、10万冊が宮古や陸前高田など被災地の、幼い心に悲しみを背負った子どもたちに届けられた。  まだ食べるものさえ満足ではない時期になぜ絵本か。それは、絵本は生きる力をくれるから。果たして子どもたちは身を乗り出して読み聞かせに聞き入り、「この本、前持っていた!」と、震災前の生活まるごとの時間を取り戻す。  本を送る人、段ボールを開梱する人、年齢別向けに整理する人、届ける人…と、絵本の力を信じる大勢の人々の、子どもと絵本への愛をすくいとった本書自体が、一つの美しい物語である。(ま)

銀幕のなかの死刑

京都にんじんの会 編

  • 銀幕のなかの死刑
  • 京都にんじんの会 編
  • インパクト出版会1200円
 京都で死刑廃止を求める活動をしている会が、2012年4月に開催した「死刑映画週間」での講演をまとめたもの。『死刑弁護人』(日本)、『サルバドールの朝』(スペイン)、『私たちの幸せな時間』(韓国)、『少年死刑囚』(日本)の上映後に、作品を読み解き、死刑制度の問題を語る8人の講師たちの言葉が熱く、重い。  政治犯の処刑を描く『サルバドールの朝』上映後の鵜飼哲さんの「死刑制度に政治的な本質があると語れないことが、死刑廃止運動にとって桎梏になることがある」との指摘や、死刑執行と原発再稼働の共通性の話などが印象に残る。岡真理さんの「死刑を存置させている社会に生きている私たち全員が、死刑の暴力性に向き合わなければいけない」との意見には深く頷いた。講師たちの示唆に富んだ質の高いトークは読み応えがある。  死刑映画は、見る者に国家や命のあり方を問う。巻末の内外の死刑映画リストは、この問題に関心のない人にこそ薦めたい。(り)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月750円、3カ月2,250円
 6カ月4,500円、1年9,000円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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