満心愛の人 益富鶯子と古謝トヨ子 フィリピン引き揚げ孤児と育ての親
大橋由香子 著
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- 満心愛の人 益富鶯子と古謝トヨ子 フィリピン引き揚げ孤児と育ての親
- 大橋由香子 著
- インパクト出版会1400円
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2人の主人公が登場する。著者は古謝トヨ子に出会い、生まれ育ったフィリピン・ダバオでの暮らし、戦争末期に山中をさまよった避難生活、引き揚げの様子と戦後史を聞く。もう1人は、孤児になったトヨ子たちを引き取ったキリスト教施設の責任者である益富鶯子。本書は戦中・戦後を主人公たちの視線、著者の視線で追う。
父は病死。母も引き揚げ船の中で力尽きた。初めての日本で、年下のきょうだいたちをどう育てていく?教育は?と、不安を覚えるトヨ子の気持ちに胸がつまる。なにしろトヨ子は、引き揚げ時に14歳。機転が利くしっかり者だ。引き揚げ地の浦賀で、鶯子を“この人は大丈夫”と一目で直感した。戦争の理不尽さを根底に、現在も看護師として自立するトヨ子は清々しい。鶯子の「満心愛」に満ちた人生も興味が尽きない。2人の際だった女性に興味を持ちつつ、一気に読了した。(四)
本当は憲法より大切な 「日米地位協定入門」
前泊博盛 編著
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- 本当は憲法より大切な 「日米地位協定入門」
- 前泊博盛 編著
- 創元社1500円
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「高校生でも読める」という「戦後再発見」双書の第2弾。初本の孫崎享著『戦後史の正体』はベストセラーに。本書は米兵の犯罪等が起きると話題になる「地位協定」の歴史や条文を細かくみることで、米国による支配=占領の継続を明らかにしていく。
旧安保条約の目的は、日本全土を米軍の潜在的な基地にすることと、基地を制約なく自由に使用することだったという。そのために、安保条約には書き込めない事柄を、国会承認の必要ない「行政協定」(地位協定の前身)に書き、そこにも書けないものは「密約」にした。
しかも60年の安保改定、それに伴う行政協定から地位協定への移行に際して、変わったのは「見た目=表現」だけで内容はそのまま、という本書の指摘には驚かされる。国内法のほとんどを適用できない聖域として、米軍は現在まで変わらぬ自由を保持しているのだ。
「まさかここまでとは!」という現実を知らなくては、「日本を取り戻す」ことはできない。(道)
改憲と国防 混迷する安全保障のゆくえ
柳澤協二+半田滋+屋良朝博 著
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- 改憲と国防 混迷する安全保障のゆくえ
- 柳澤協二+半田滋+屋良朝博 著
- 旬報社1400円
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「改憲しなければ日本は守れない」と主張する政権の誕生に危機感を持つ3人が書いた。それぞれが「安倍政権と集団的自衛権」、「冷戦後の自衛隊」、「沖縄・米軍基地と日米同盟」について書き、鼎談を掲載。3人とは危機管理・安全保障を担当する官房長官補だった柳澤協二さん、自衛隊・在日米軍担当の東京新聞・半田滋さん、沖縄の基地問題を取材してきた元沖縄タイムスの屋良朝博さんだ。
安倍首相の「『戦後レジーム』からの脱却」とは、軍事的対米従属の足かせとなる平和憲法の価値体系を放棄し、対米従属一辺倒の体制を構築することだと指摘。米国が懸念する歴史認識を押し出しながら、軍事的に目的が説明できない集団的自衛権によって米国に取り入ろうとする安倍首相の発想は自らの思想の矛盾に無関心であるだけに危ないと批判する。「日米同盟以外に思考の軸を示せない政府の発想の貧困」を変えるために役立てたい一冊。鼎談も具体的で分かりやすい。(い)