- 刑事司法とジェンダー
- 牧野雅子 著
- インパクト出版会2000円
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性暴力犯罪をめぐる刑事司法には、女性を中心に多くの批判がなされてきた。被害者保護のために、不十分ではあるが、少しずつ改善がなされた。強姦罪の刑罰も重くなった。しかし著者は、警察学校の同期生が被告になった、連続レイプ事件の裁判を傍聴するうち、加害者研究と責任追及の不在に気付く。そこで、加害者との長期間にわたるやり取りを始めた。 捜査機関も裁判所も強姦を「性欲」からの犯罪とし、「性欲が強いか」「買春はしないのか」と聞き、巧妙な脅迫も、暴力も「本能から」とした。加害者は「性欲からではない」と著者に語ったが、「性欲からの犯罪」なら加害者が反省する余地はない。また加害者が警察官で性犯罪の刑罰強化などを知っていたことにも裁判では触れていない。
性犯罪を抑止し、加害者に本当の矯正をさせるには、徹底した加害者の研究と、責任追及、反省を促す刑事司法のあり方が必要だと、自らの「傷」に堪えて明らかにした研究に感謝の一言。(登)
モダン・ライフと戦争 スクリーンのなかの女性たち
宜野座菜央見 著
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- モダン・ライフと戦争 スクリーンのなかの女性たち
- 宜野座菜央見 著
- 吉川弘文館1700円
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1930年代の映画と、その中の女性たちの姿を通じて当時の社会との関係を考察する一冊。日中戦争開戦前後、国からの圧力が徐々に映画制作にも影響していたが、意外にも洋風文化や娯楽を追求するあっけらかんとした作品は数多くつくられていた。華やかなモダン・ライフを映す映画は貧困や格差を生み出す社会構造への批判より、苦しい現実をひとまず置き、一発逆転の成功を夢見る効果をもたらしたのだろう。だが、一見戦争とは全く無関係に思える映画は、人々に現実を直視させず戦争に加担させていくことになる。
銀幕で圧倒的に輝きを放ち続けるのはモガとよばれる女性たちだ。事務職や女給、バスガールなどの女性職が増えつつも男女賃金格差が固定化されたこの時代、「私」を生き自分の意思で人生をつかみ取るモガの姿は、贅沢や個人主義の象徴として批判の対象となってもなお存在感を持っていた。
憧れと危うさを併せ持つ映画の数々を実際に観たいものだ。(梅)
死に逝くひとへの化粧 エンゼルメイク誕生物語
小林照子 著
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- 死に逝くひとへの化粧 エンゼルメイク誕生物語
- 小林照子 著
- 太郎次郎社エディタス1600円
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死装束や死化粧。縁起でもないかもしれない。私は身近な人を見送った際に違和感を抱いたことがある。生と死を区分けする衣装や化粧が本当に必要なのかと。
著者は大手化粧品会社で長く働いた経験もあるメイクアップアーティスト。あるとき、親しかった若い友人の訃報を聞き駆けつけてみて、様変わりしたその姿に愕然とする。彼女に(聞こえるはずもないが)話しかけ、肌に触れて、血色よく肌を整え、元気だった頃の姿のように化粧をしたところ、悲しむばかりの親族の様子が一変した。これがきっかけで、遺族のケアとしても有効な「エンゼルメイク」が編み出された。本書ではいくつものエピソードと共に、実践的に広げられていく様子が紹介される。
病気で臥せっている場合にも化粧は有効だという。また簡単なエンゼルメイクも紹介されている。あまり美容に縁がなくとも、手当てすることの大切さをいつになく考えてしまった。(三)