Because I am a Girl わたしは女の子だから
ティム・ブッチャー、グオ・シャオルーほか 著 角田光代 訳
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- Because I am a Girl わたしは女の子だから
- ティム・ブッチャー、グオ・シャオルーほか 著 角田光代 訳
- 英治出版1600円
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世界には性器切除、教育を受けられない、売春させられる、レイプが日常茶飯といった「女の子の暮らし」がある。ブラジルの都市スラムでは、女の子が10代の早いうちに子どもを産み、その子を育てるために売春する。幼い母親の命が危ぶまれても中絶を禁じるキリスト教、コンドームをつけない男たちという不条理の中で暮らす女たち。「女」であるがゆえに課せられてしまったそうした暮らしを、統計や報告書といった形ではなく、女性たちの肌のぬくもり、声の色調を感じとれるかのように伝えてくれるのが本書である。
国際NGOプランは、角田光代さんなど世界各国の作家に、開発途上国に行き、女性たちに会って話を聞き、作品を書くことを依頼した。被害を見える存在にするために。作家たちは女たちの苦しみと同時に、誇りに満ちた輝きも描く。それは、作家が確かに見いだしたものなのか、見いだそうとしたものか…。だがそれがあるからこそ私たちは生きていける。(ま)
- さよなら、韓流
- 北原みのり 著
- 河出書房新社1300円
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「韓流はエロい」と断言する著者の本を待っていた。韓流を「女の欲望史」としてとらえた本書は鮮やかだ。韓国ドラマやモムチャン(鍛え上がられた体)の男性スターに熱狂し、著者曰く「女の楽園」である東京・新大久保を仲間と歩き、ハングルを習う女たち。「ハグされたい」と欲望を隠さず、能動的に活動する女たちは、あらゆる層からバッシングされた。
「韓流女」を特に罵るのは、嫌韓である男たち。今ではネットのみならず、放送局前や新大久保で嫌韓デモを繰り広げる。愛国心と女性蔑視が重なった強力デモは、マスコミにも影響を与え、「韓流は終わった」と喧伝された。
しかし、著者は言う。韓流は日本や日本男性を映す鏡であり、日本の男に絶望した女が、その彼らに消されかけているが、しなやかに強く根深く自由な欲望を、自ら手放してはいけないと。鼎談で登場した信田さよ子さんの「韓流はフェミのムーブメント、大衆化」という言葉も力強い。(り)
ヴェールの政治学
ジョーン・W・スコット 著 李孝徳 訳
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- ヴェールの政治学
- ジョーン・W・スコット 著 李孝徳 訳
- みすず書房3500円
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小さな布きれが大きな論争を引き起こした。2004年、フランス政府は、公立学校で宗教的帰属を「誇示」するものの着用を禁止する法律を可決。主な標的はスカーフ(ヴェール)をかぶるムスリムの少女である。これをめぐり、仏社会を二分する「スカーフ論争」が展開された。禁止法支持者は伝統対近代、原理主義対世俗主義など二項対立を持ち出したが、著者は複雑で重層的なこの論争の政治はそれでは把握できないとし、人種主義、世俗主義、個人主義、セクシュアリティーの4つのトピックごとに省察・批評する。多くのフェミニストがジェンダー平等の基盤として禁止法を支持した理由の分析など考えさせられる点は多い。
仏のイスラーム嫌悪を植民地主義に根ざす人種主義として抉り出した著者は、「十全な民主政治は同意だけでなく、継続する不同意への民主的な扱いを模索すべき」という。草の根レイシズム・拝外主義に向き合えない日本に生きる者にも有益な視座を示す。(風)