社会運動の戸惑い フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動
山口智美、斉藤正美、荻上チキ 著
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- 社会運動の戸惑い フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動
- 山口智美、斉藤正美、荻上チキ 著
- 勁草書房2800円
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2000年代前半、フェミニズムと男女共同参画行政は「ジェンダーフリーバッシング」「バックラッシュ」に苦しめられた。本書は、その運動を担った人々に聞き取りを行い、「バックラッシュ」という一枚岩で捉えられがちだったものの具体像を明らかにする。そして、男女共同参画行政やフェミニズムに対する批判の中身を探ることで、フェミニズム運動を批判的に振りかえろうとする。
性的少数者の権利を擁護し、性と生殖の権利についての自己決定、性別などによる差別的扱いを事業主に禁止することが明記された画期的な宮崎・都城市の条例は、わずか2年で改悪された。市長が条例制定を後押ししたことなどを口実に、ヘテロセクシズムを揺るがす動きが攻撃された。
女性センターでバックラッシュを目の当たりにしてきた私としては、本書を手にいろんな人と対話を交わしたい。(竹)
昨年末、政権交代に失望していたころに本書を手にとり、視界がぱっと開けるような思いがした。
オイルショックを契機に欧米では製造業が衰退し、「ポスト工業化社会」への転換が起きた。日本は特殊な国際環境で製造業を維持でき、画一的だが安定した「工業化社会」が90年代半ばまで続いた。
だが政官業の癒着による既得権を始め、「工業化社会」のさまざまな仕組みはすでに限界に来ていた。原発事故がそれを象徴的に露呈させたことが、人々が漠然と感じていた不満や不安に火をつけ、脱原発運動を広めることになったという。単に事故の衝撃の強さが原因ではないのだ。一時的な揺り戻しはあっても、私たちは不可避の転換期にいると認識させられる。
問題は、ノスタルジーやリーダー待望論に流されるのか、自らが対話と参加によって新しい社会を作りなそうとするかにある。「社会を変えるには、あなたが変わること」。本書はその最良の「手助け」となるはずだ。(道)
天と地と人と 民衆思想の実践と思索の往還から
花崎皋平 著
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- 天と地と人と 民衆思想の実践と思索の往還から
- 花崎皋平 著
- 七つ森書館2300円
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著者は北海道大学教員を退いた後、40年余にわたって在野の哲学者として執筆活動と民衆運動に取り組んできた。2011年3月11日の東日本大震災と福島原発事故を契機として、著者は今までの思索を問い直す。
本書は「精神的世界」「生命的世界」「人称的世界」の3部にわかれ、アイヌなど先住民族の自然に対する考え方、水俣を記録し続けた石牟礼道子をはじめ思想家の言葉などを引きながら、自然と人との関わり方・現代文明のあり方を検証する。生命の再生産と持続という観点から、著者は西欧近代文明中心のイデオロギーを批判し、生き物のみならず「もの」すべてに命が宿るとみる先住民族に深く学ぶ。
「原発を廃止し、安楽と便利を唯一の価値とする生き方と経済社会関係からの脱却を図るための二度とない機会に、私たちは遭遇しているのではないだろうか」と著者は問う。脱原発を支える「哲学」を、私たちは持つ必要があると本書は教えてくれる。(あ)