また、福祉が人を殺した 札幌姉妹孤立死事件を追う
行武正刀 編著
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- また、福祉が人を殺した 札幌姉妹孤立死事件を追う
- 寺久保光良、雨宮処凛、和久井みちる 著
- あけび書房1400円
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厳寒の1月の札幌、電気もガスも止められた室内で、40代に入ったばかりの姉妹が亡くなっていた。姉は脳内出血、知的障害をもつ妹は餓死・凍死。冷蔵庫は空だった。姉は3度も、生活保護を求めて福祉事務所に通ったが、窓口は「保護の要件である、懸命なる求職活動を伝えた」だけだった。
両親を早くに亡くした姉妹は、伯父の家に身を寄せ、それぞれに仕事に就き、自立し、姉は家計簿を付け、部屋をきれいに片づけて、たまにコンサートを楽しんでいた。それが妹の体調の崩れや非正規労働の不安定な身分から、次第に逼迫し、健康保険料は払えなくなり、光熱費を滞納するまでになった。そして生きようと必死に伸ばした手は、冷酷にも振り払われた。
確かにここに生き生きと日々の暮らしを送っていた女性がいたことに、ワーキングプアを生み出し、社会保障を削る国の政策によってその生が無残にも断たれたことに、この事件の恐るべき普遍性を感じる。(ま)
忘れない ! 明日へ共に 東日本大震災・原発事故と保育
「現代と保育」編集部 編
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- 忘れない ! 明日へ共に 東日本大震災・原発事故と保育
- 「現代と保育」編集部 編
- ひとなる書房1400円
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本書は、震災に遭った保育園の保育士、保護者と研究者の手記。
岩手県大槌町では、職員が乳児を抱きかかえ、周囲の大人にも助けられて斜面をよじ登って避難した。行方不明になった子どもに対し、親と帰宅させた判断を後悔する保育士らは、悲しみを分かち合いながら保育園を再開していく。二度と会えない友だちがいることを心にため込んでいた子どもたちが、気持ちをはき出したときの描写には胸がつまる。
福島市渡利地区の保育園では、保育士と保護者が放射能の学習をし、健康状態のチェック体制や、きちんと知って、理性的に恐れることを学び、福島に留まる気持ちを整えていく。宮城県石巻では、園長が、生死を分けた自分の判断を「一生この荷を背負って生きる」と言う。
大人も子どもも、ようやくあの日を振り返り、涙を流し、誰かに語れるようになってきた。語り継いでいく言葉の重みを受け止めたい。(三)
プラスチックスープの海 北太平洋巨大ごみベルトは警告する
C・モア、C・フィリップス 著 海輪由香子 訳
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- プラスチックスープの海 北太平洋巨大ごみベルトは警告するみ
- C・モア、C・フィリップス 著 海輪由香子 訳
- NHK出版1900円
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海をこよなく愛する著者は、ある航海の最中、洋上に浮かぶビニールや玩具類、ボトルなど大量のプラスチックごみを目撃する。
太平洋渦流に集まる種々雑多なごみの誤食により海鳥などは激減、小さな破片はプランクトンや魚が食べ、付着している毒性化学物質は食物連鎖で濃縮される。石油製品に用いられるフタル酸エステルなどの化合物は、発がん性や、内分泌攪乱物質による生殖機能の低下など、生体に悪影響を及ぼすことも分かっている。
海洋調査団を立ち上げた著者は学術調査を丹念に行う。運動の展開には科学的な裏付けが重要だからだ。同時に著者は、生体影響の懸念があるならば因果関係が明確にならずとも企業活動を優先すべきではないとの信念も持つ。
強大な企業に個人が対抗するのは難しい。実態はレジ袋を断るぐらいで解決できるものではないが、「プラはうんざり」の気持ちと危機感を共有し行動につなげることには意味があるはずだ。(梅)