やさしく生きたい 私を育ててくれた戦後教育と四万十川
青木悦 著
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- やさしく生きたい 私を育ててくれた戦後教育と四万十川
- 青木悦 著
- 出版社:けやき出版 価格:1400円
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いじめ、不登校、虐待など子どもや親の問題、それを生み出す社会の問題を丁寧に取材し、発信してきた青木悦さんが、今、福島原発事故から考えたこと、そして自分を形成した生地高知県四万十川の豊かな自然、自らが受けた戦後教育を語る。しかし青木さんは福島を「ふるさと」とし、移り住もうとしている。妻にも子どもにも暴力をふるった父、物の豊かさを求めて働き、学歴にこだわる母がいた高知ではなく、夫の母が住む福島。大地とともに慎ましく生き、人を受け入れ、包みこむこの母がおり、春には一斉に花開く福島を「ふるさと」と定めた青木さんにとって、原発事故と心の距離は近い。
競争を激化させる社会、管理を強める教育現場、その影響を受け学歴や地位の高さを求める家庭が子どもを追い詰めている。これらが原発を推し進め++++++++++++てきた社会のありようと重ね合わさっていることが、著者の「一つ一つの生命」をいとおしむ立ち位置からの透徹した視線によって描き出される。(ま)
ルポ職場流産 雇用崩壊後の妊娠・出産・育児
小林美希 著
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- ルポ職場流産 雇用崩壊後の妊娠・出産・育児
- 小林美希 著
- 出版社:岩波書店 価格:1900円
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仕事をしながら産み、育て、看取る、人としてあたり前のことがなぜこんなにも過酷なのだろうか。著者は雇用劣化と妊娠・出産・育児の現状を重ね合わせ、働き方や社会のあり方を模索する。
長時間労働などで働き手の負担が増大する一方、出産や育児に対する職場の理解は薄く、妊娠・出産後に働き続けることは難しい。女性が多数の医療や介護現場でも、過密労働は常態化している。
また、流産、死産の背景には医療崩壊の現実も。医療政策、地域医療体制には課題が山積みだ。
後半では、中小零細企業などで実践されるさまざまな働き方のが紹介される。子育て、介護などで制限があっても働き続けるにはどうしたらよいか。「少子化対策」をうたい文句にしたお仕着せの支援策ではない、きめの細かい工夫が大切だ。ワーク・ライフ・バランスって結局、職場と個人の実情に応じた微調整、つまり「面倒臭い」やりとりが、運用の鍵になるのかもしれない。(梅)
父たちの“戦場”に暮らす人びと 日中の「記憶」をむすぶ旅
加藤克子 著
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- 父たちの“戦場”に暮らす人びと 日中の「記憶」をむすぶ旅
- 加藤克子 著
- 出版社:第三書館 価格:1500円
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父親が遺した「戦場日誌」をもとに、著者が戦跡をたどる旅を始めたのは、2000年5月。上海、南京を通り、父たちの戦場となった九江から永修へ…。現地の人々は、あの戦争のことを忘れていなかった。知られざる旧日本軍の残虐な加害行為が、明かされる。
集団虐殺、毒ガス戦、戦場で聞いた「慰安婦」の話…。日本の侵略戦争は多くの中国市民の命を無差別に奪い、幸せな日々を奪い去った。激戦地、廬山では日中双方のおびただしい血が流された。
忘れられるはずもないおぞましい体験を日々聞かされながらも、そのことに向き合おうとする著者に、人々は優しかった。食事のあとお礼にハーモニカを吹くと、お店の主人もまたハーモニカを持ち出し合奏、というほほえましいシーンも。街の風景やレストラン、学校、チャイナドレスのお店で…感じたことが率直に記されているのも、興味深い。いまを生きる人同士が、どう心を通わせていけばいいかを考えさせてくれる。(室)