韓流が伝える現代韓国『初恋』からノ・ムヒョンの死まで
イ・ヨンチェ 著
|
- 韓流が伝える現代韓国 『初恋』からノ・ムヒョンの死まで
- イ・ヨンチェ 著
- 出版社:梨の木舎 価格:1,700円
|
|
来日して10年、日本の大学教員となった著者は「入り口は『冬ソナ』でも何でもいい。出口が日韓市民交流に行きつくことができれば」という思いで、様々な市民講座で韓流ファンとの対話を重ねてきた。本書は信州での講演を再録する形で、植民地、南北分断、戦争、反共軍事政権、民主化闘争といった激動の韓国近現代史が映画・ドラマと共に語られる。
軍事独裁政権を倒し、金大中、ノ・ムヒョン両大統領による「民主政権」を誕生させ、担った世代を韓国では「386世代」と呼ぶ。韓流の作り手たちはこの世代で、ドラマや映画の台詞の中には彼・彼女らの体験や思いが散りばめられ、それが国境を越えて日本の人々の胸に届いたと分析する。著者もまたこの世代で、ノ・ムヒョン前大統領の死、市民に銃を向けた光州事件(1980年)の記述には「386世代」としての自負と途切れない「民主化」への思いを感じた。 「動」の韓国に比べ、日本の「静」ぶりも実感させられた。(束)
- 広島の消えた日 被爆軍医の証言
- 肥田舜太郎 著
- 出版社:肥田舜太郎 著 価格:1,700円
|
|
広島で自らも被爆し、その直後から昨年まで64年間、医師として被爆者の診察・治療にあたるほか、世界30カ国余で被爆の証言活動を行い核廃絶を訴えてきた著者。本書は敗戦が色濃い中、広島陸軍病院での軍医としての日々と、原爆の恐るべき実相をつづった手記(旧版1982年)の増補新版だ。
核不拡散条約(NPT)再検討会議でも期限を明記した「核兵器廃絶」への道のりが険しい。著者の手記は「核の恐ろしさ」という、ともすれば「概念」となりがちな言葉を私たちの五感にくっきりと浮かび上がらせる。そして「核は持っても危険」という原点に返ることができる。それは直接被爆していないのに、その後に放射線を吸い込み「低量放射線被曝」で体を蝕まれて死んだ多くの人たちを見送り、研究を重ねた著者の結論だ。増補の「被爆者たちの戦後」では、GHQと日本政府による遺棄、差別、貧困、死と隣合わせで生きる被爆者たちが語られる。今まさに読まれたい一冊。(登)
- 介護保険は老いを守るか
- 沖藤典子 著
- 出版社:岩波書店 価格:800円
|
|
介護保険は分かりにくく、申請書類が多い。利用者や家族は結局ケアマネジャーを頼る。
本書は、介護保険10年の中で、何が起こったか検証する。
家族頼みだった介護がやっと社会化されると歓迎された介護保険だが、利用者が当初のもくろみよりも増え、4年後には「適正化」の名のもとに在宅の利用が抑制された。様々な悲鳴やあきらめの声が聞こえる。要支援1は介護予防体操をさせられ、介護認定は軽度になるように変えられた結果、不信が増大した。
労働者は賃金が安くてきつくて、でもやりがいのある仕事に泣き、担い手不足と高齢化を招いた。
筆者は、財源論による利用制限を戒め、在宅介護の流れを充実させ、シンプルな制度にと提案、労働者への手厚い処遇を提案する。
介護保険の10年の後半部分は「適正化」の嵐にもまれてしまった、と反省する筆者は、介護保険制度を労働者と高齢者の尊厳を守る制度にしていこうと呼びかける。(衣)