新版 ブランドなんか、いらない
ナオミ・クライン 著/松島聖子 訳
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- 新版 ブランドなんか、いらない
- ナオミ・クライン 著/松島聖子 訳
- 出版社:大月書店 価格:3,500円
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1990年~2001年にかけて書かれた『No Logo』の邦訳新版。
80年代から90年代、NIKEやGAP、Starbucks等の企業は大規模なブランド戦略を進め、広告業界も莫大な利益を得た。まさに「イメージ」が支配した時代である。しかし華やかさの裏にあったのは「空飛ぶ工場」の異名で労働問題が発生するたびに拠点を変える製造現場の過酷な搾取だ。
この状況に怒りを表明した人も多くいた。アーティストは広告イメージをパロディー化して破壊し、市民はネットを駆使して抗議運動を世界に広めた。今では多くの企業が表向きながら労働基準の「ガイドライン」を敷くようにもなった。市民の力でブランドの力は弱まったかもしれない。しかし現在は「低価格」という強力な「ロゴ」が登場し、さらに過酷な搾取も行われている。市場原理主義の中で、「モノ」は誰がつくり、「カネ」はどこへ流れていくのか。金融危機後の今、改めて本書を読み、深く考えたい。(梅)
性の貧困と希望としての性教育その現実とこれからの課題
浅井春夫、杉田聡、村瀬幸浩 編著
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- 性の貧困と希望としての性教育 その現実とこれからの課題
- 浅井春夫、杉田聡、村瀬幸浩 編著
- 出版社:発行=十月舎 発売=星雲社 価格:1,700円
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日本社会の貧困が水面下で進行した時期、それは労働の規制緩和や福祉切り捨ての新自由主義的な政策が進んだ時期でもあり、ジェンダー・フリーや性教育への攻撃が激化した時期でもあった。この20年アダルトビデオも増え、ここから性のハウツーを学ぶ若者も少なくないという。
貧困の時代の子どもたちは、何を求めているのか。一度凍えてしまった性教育こそ必要であることを、9人の著者が執筆する。
養護教諭の金子由美子さんは学校で子どもがけがをしても保険証がないため病院に行かせない親や、頭シラミが原因で学校に来なくなる子を保健室でシャンプーする様子などを報告する。親もまた自己肯定感が薄く性産業に行きやすい例を紹介。貧困家庭に育つ子ほど性交渉をもつのが早いという調査も慎重にではあるが紹介される。
七生養護学校の性教育裁判も勝訴した。時代の転換の中でこうした語りこそが希望としての性教育を開くのではないか。(衣)
スィンティ女性三代記〈上〉私たちはこの世に存在すべきではなかった
ルードウィク・ラーハ 編著/金子マーティン 訳
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- スィンティ女性三代記〈上〉私たちはこの世に存在すべきではなかった
- ルードウィク・ラーハ 編著/金子マーティン 訳
- 出版社:凱風社 価格:2,500円
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日本でも「ロマ音楽」はちょっとしたブームにもなった。でも「ジプシー」など、様々な他称や蔑称で呼ばれる人たちが被ってきた迫害の歴史、生活の実態はあまり知られていない。
本書はロマのグループの中でスィンティと呼ばれる集団に属した3人の女性―ナチスの強制収容所からの生還者である祖母、戦後生まれで後にスィンティとロマの権利擁護団体を設立する娘、1978年生まれの孫―の聞き取りや手記からなる。タイトルは祖母の言葉。強制収容所で家族・親族のほとんどを亡くし、旅をしながら行商を行う生活の中、警察などからの不当な扱いや差別を嘆いた。
しかし戦前は「家馬車」、戦後はキャンピングカーと旅の手段は変わるが、旅生活の豊かさと楽しさ、音楽があふれる美しさ、家父長制の中での家族への愛情など、彩りあふれた生活の実態は私たちの中にある偏見と無知をぬぐい去ってくれる。(登)