ラディカル・マスキュリズム 男とは何か
周司あきら 著
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「マスキュリズム」と聞くと、米国での性差別的な「男性至上主義」が思い浮かぶ。著者はあえてこの語を使い、男らしさ・身体・男性運動・ヘゲモニー(覇権)・ミサンドリー(男性嫌悪)の視点から「男とは何か」に徹底的に向き合い、解体する。トランスジェンダー男性かつパンセクシュアル(全性愛者)の著者が、「男」とまつわるものを刷新したいからだ。
男性運動では、保守運動、メンズリブ、マノスフィア等の主張の違い等を分析。「男性差別」を叫び、女性やフェミニズムを敵視する運動の根底にある要求にこそ、「ラディカルな変革なきざしがある」との指摘や様々な社会運動を「男性運動」と捉え直す発想には目が開いた。さらに男性にはないとみなされがちなミサンドリーを、著者は「ある」と捉え、そこを出発点にしつつ、いかに性差別構造解体に向かわせるのかの処方箋は本書の最大の読みどころ。男性の性と生を豊かにすることが、社会変革に繋がると示す希望の書だ。(ジ)
- 爆弾犯の娘
- 梶原阿貴 著
- ブックマン社 1800円+10%
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著者は、渋谷のバス停で殺されたホームレス女性を描いた映画『夜明けまでバス停で』と、1970年代の連続企業爆破事件で指名手配された男性を描いた映画『「桐島です」』の脚本家。そして、著者の父も爆破事件で長く指名手配されていた。
父を“あいつ”と呼び、母子家庭を装い、家には誰も連れてきてはいけない・何があっても110番はできない、という謎なオキテの中で子ども時代を過ごした著者の父・母との日々は、一筋縄ではいかない影響を及ぼしていく―。なぜ、俳優を経て脚本家になったのか。共に映画の仕事をしてきた人々の、アクの強い個性…。独特なひねりが効いた著者の筆致も相まって、読み手は惑わされつつも本書の世界に引きずり込まれていく。
子ども時代を過ごした池袋の場末の猥雑な様子が生き生きとし、まるで「じゃりン子チエ」の世界だ。『夜明けまで~』の主人公を現実と異なる設定にした思いに、胸が熱くなった。(三)
私は何者かを知りたい 匿名の精子提供を生きる
ドナーリンク・ジャパン(DLJ) 編
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- 私は何者かを知りたい 匿名の精子提供を生きる
- ドナーリンク・ジャパン(DLJ) 編
- 晃洋書房2500円+10%
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「非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ(DOG)」が『AIDで生まれるということ』(DOG・長沖暁子編著、萬書房)を出して約10年。同メンバーが続編をと出版したのが本書。AIDで生まれた当事者だけでなく、生まれた人の父親や母親、パートナー、精子提供者なども経験や思いを語っている。
現在は「出自を知る権利」の保障は重要だとされるが、かつては、AIDは秘密裏に行われていた。DOGの多くのメンバーは、幼い頃から(家族の中に隠しごとがあるせいか)何らかの違和を感じていたとわかる。突然の告知もショックだろう。ゆえに幼い頃からの告知と、出自を知る権利の保障が必要と訴える。一方、告知後にわきあがる苦しみと向き合い、語ることで、それぞれの人生に奥深い意義を見いだしていると感じた。本書の人々の率直で貴重な語りは、子どもをもつことはどういうことか、家族とは何かという、多くの示唆を与えてくれる。(く)