Subject: [fem-events 512] 住友化学また不当判決
From: "Reiko" <hx7r-syuj@asahi-net.or.jp>
Date: Sat, 31 Mar 2001 02:28:55 +0900
Seq: 512


 3月28日に住友化学の判決がありました。判決文全部は4月2日にはWWNのホームペー
ジhttp://www.ne.jp/asahi/wwn/wwin/にのります。以下の弁護士コメントの英訳も10
日までに掲載しますのでぜひ世界中に広めてください。採用区分さえ違えば男女差別
ではない--本人が内容も知らずに、いったん女性コースで入社したら最後,ずっと差
別が続くのです。オリンピックの選手並みの能力を発揮したことを証明しない限り,
昇進も出来ないシステムの元で,どうしたら男女平等になるのでしょうか。ジェン
ダーバイヤスのかかったこの判決に抗議し,4月25日の昼休みに裁判所を取り囲む人
間の鎖とデモを予定しています。また抗議メールも受け付けていますので,じゃん
じゃんお寄せ下さい。メールのあて先はshizuko@my.email.ne.jpです。エイズの阿部
被告の無罪といい,関釜裁判の広島高裁での敗訴といい,この国では誰も責任を取ら
ないのですね。森総理の無責任な発言のあれこれも。「ご破算で願いましては]と総入
れ替えをする時期が近づいているようです。(正路怜子/wwn世話人)
住友化学裁判全面敗訴

  1995年8月に提訴してから5年7ヶ月、住友化学男女賃金差別是正裁判の判決が、
2001年3月28日の午後にありました。結果は原告全面敗訴、昨年7月の住友電工判決で
は「男女別採用は憲法違反ではあるが,昭和40年代には女性は結婚出産で退職するの
が普通であり、公序良俗違反とはいえない」としたのですが、今回はさらに後退し
て,憲法違反という言葉はなくなっています。

たったひとこと「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とす
る」と述べただけで,さっさと退場する松本哲泓(てつおう)裁判長。住友電工判決
では裁判所の責任でマスコミ向けに判決要旨が出たのに,今回は何度請求しても[忙
しいので]と答えるだけ。原告や傍聴者による「なぜ判決要旨を出さないのか」の抗議
に対して「要旨を出すと誤解されるから。判決文を読んでください」と不敵な笑いと
ともに逃げるように去っていったのです。一瞬の出来事です。判決文はB5版で182ペー
ジ。ここではとりあえず,主任弁護士による判決に対するコメントを掲載いたしま
す。

住友化学判決についての簡単な解説   弁護士 池田直樹
 判決直後ゆえに、まだ十分な検討はできていませんが、判決そのものはなかな か
読みにくいと思いますので、以下に簡単に解説いたします。

 1 主位的請求について
 予想されたとはいえ、過去の男女差別の判例よりも大きく後退した住友電工判 決
を踏襲したというより、憲法の趣旨に反するという言葉がないだけ、電工判決 より
も後退しており、今日の社会的実態と乖離したきわめて不当な判決といわざ るをえ
ない。
  主位的請求では、原告らは、被告が高卒男性は将来の幹部候補生(管理職ないし
専門職)として三種採用し、高卒女性はそれ以外の一般職として二種採用し、 その
後はそれぞれの採用区分に応じた格差のある処遇をしたことが、違法な男女別コース
管理だと主張した。
 それに対して、まず判決は、二種採用で採用された原告ら高卒女子と三種採用で採
用された高卒男子との間に、職分昇任や管理職昇進および賃金において著しい格差が
あることは認めた。
 しかし、格差の原因としては、全社採用と事業所採用という採用方法の違いによっ
て社員はもともと区分されており、採用区分ごとのその後、予定された処遇は全く異
なっているとした。つまり、採用区分によって、採用後の社内の位置付けが全く異
なっていたとする。裁判所によれば格差は、全社採用の専門職務従事要員か、事業所
採用の一般職務従事要員かという社員としての位置付けからくる採用区分の違いで
あって、男女差別の労務管理の結果ということはできないとした。

  確かに、男性も女性も同じようにその能力(資格を含む)や意思に応じて、客 観
的で公開された基準によって区分された専門職務と一般職務に振り分けられていたの
であれば、格差の違いは、性中立的な採用区分に起因するものと言うことはできる
(例として、医師と事務職など)。しかし、原告らが入社した当時は、そもそもその
ような採用区分についての説明などなかったし、医師と事務職といった例とは異な
り、企業内では専門職務と一般職務といってもその垣根は曖昧で あり、男性がやれ
ば専門職、女性が担当すれば一般職という面もあったのである。さらに、全社採用と
いっても一貫して居住地変更を伴う転勤のない社員も一定数存在していた。
  しかし、裁判所は、これらの原告の疑問をことごとく排斥した。企業には、採用
区分についての一般的説明義務はないとしたのみならず、転勤を現実にしていなくと
も転勤がありうるという負担そのものが質的な労働条件の違いであるとし、さらに、
専門職務と一般職務との区別も判定可能であるとしたのである。この点、住友電工判
決と論旨は同一である。
 では、同じ高卒であっても、男性は専門職務、女性は一般職務に自動的に振り分け
られていた点は性による差別とならないのであろうか。
 この点、判決は、原告らの主張に沿う形で、原告らの採用当時、高卒女子は、
 個々の意向を聴取されたり、能力を審査されたりすることなく、女性であることを
理由として一般職務従事要員と位置付けられていたと認定した。しかしながら、判決
は、女性であることを理由として一般職務従事要員と位置付 けられていたとして
も、それは差別ではないと結論づけるのである。
 その理由の第一は、昭和36年制度においても、100%女性が一般職務従事要
員に固定されていたわけではないという認定である。これは、当時あった職分三 級
登用審査制度を通じて、2種採用の女性においても、専門職務に従事する機会は与え
られていたとするものであるが、これは被告からも特段主張されておらず、原告に
とっては全く予想だにしなかった不意打ちの認定である。実際、この審査制度を通じ
て専門職に登用された女性が存在するのかどうかも検証されていない。要するに、入
り口で女性は三種採用から排除されてはいたものの、中に入った後で、わずかにせ
よ、専門職務に従事する道はあったから、確定的に女性を三種採用が予定したコース
から排除するものでないから違法でないというのである。100%完全に女性を排除
している制度でなければ制度的な性差別とはいえないという裁判所の差別に対する基
本的認識は本判決の随所に出てくる。アメリカのdisparate impact(差別的な効果)
の理論や間接差別の理論によれば、仮に一部例外的に男性と同等の待遇を受けている
女性がいたとしても、一定の比率以上の統計的格差があれば、その制度自体が差別的
であるとされるのだが、今回の裁判所にはそのような発想は全くない。
 女性を入り口で排除する採用区分が違法でないとする第二の根拠が公序良俗に 反
しないという住友電工判決の理由付けである。
 ところで、住友電工判決では、「被告会社が幹部候補要員である全社採用から高卒
女子を閉め出し、他方で事業所採用の事務職を定型的補助的業務に従事する職種と位
置付け、この職種をもっぱら高卒女子を配置する職種と位置付けたこと、 その理由
も結局は、高卒女性一般の非効率、非能率というものであるから、これは男女差別以
外のなにものでもなく、性別による差別を禁じた憲法14条の趣旨に反する。」と述
べた上で、しかし、当時の社会意識や女子の一般的な勤続年数等を前提にして最も効
率のよい労務管理を行わざるをえないのであるから、女性を定型的補助的業務にのみ
従事する社員として位置付けたことをもって、公序良 俗違反であるとすることはで
きないとしていた。
 ところが、他の個所では住友電工判決の文章をそのまま流用している個所が多々見
られるにもかかわらず、本判決は、ここのフレーズについては、右のような憲法14
条の趣旨に反するという表現を完全に削除している。そして、不合理な採 用区分の
設定は違法になることもあるというべきであると一般論では述べつつ、 先に述べた
とおり、36年制度のもとでも専門的職種への転換する機会はあった ことや、住友
電工同様の、当時の役割分担意識、女子の短期退職傾向、わが国の企業の雇用慣行、
女子保護規定の存在などをあげて、高卒女性を日常定型業務である一般職務にのみ従
事する社員として採用したことをもって、当時の公序良俗に違反するとまでいうこと
はできないと述べたのである。
  憲法の趣旨には反するが公序良俗には反しないというフレーズがマスコミに取り
上げられ、住友電工判決批判の象徴的文言となったことをおそらく裁判所としては強
く意識したのではないだろうか。この点、我々は、憲法の趣旨に反する以上、公序良
俗にも反し、違法だとすべきだと批判してきたのであるが、裁判所は、公序良俗の考
え方に対する弁護団からの批判には全く耳を貸さない一方で、 憲法の趣旨に反する
という点をひっこめて論理の辻褄合わせをしてきた。憲法の精神よりも、日本の中核
企業における企業慣行や企業文化の擁護こそが重要だと 言うに等しい、きわめて不
当な論理といわざるをえない。

 2 予備的請求の1 転換審査制度の運用上の差別の有無
 この請求は、昭和45年制度で導入され、昭和59年制度のもとでは推薦制度と
なった系列転換審査制度によっても原告らが転換できなかったのは、被告によって、
転換制度が女性に不利な形で性差別的に運用されていたからだという主張であった。
  裁判所は、まず転換制度自体が主として高卒男性の転換を意識した、性的にバイ
アスがかかった制度であるという原告らの主張を排斥した。そのうえで、専門事務職
系列転換審査制度Bの運用による男性合格者は246
名、女性は2名であり、その合格実績には著しい格差があることを認めた。 しかし
ながら、そのような格差があっても、そもそも女子受験者が少数であったことや、学
科試験という恣意的運用がなされる余地が少ない審査であったなどとして、それが男
女差別的運用の結果であるとは認められないとした。
  続いて判決は、昭和59年の推薦制度について検討する。判決は、推薦制度に主
観性が入ることは避けがたく、推薦基準そのものにおいても(主観が入りやすい)評
価的要素が多いことは認めたが、少なくとも文言上は格別女子を不利益に 取り扱う
ものはないし、被告の主張をそのまま取り入れて推薦制度のもつ性差別性を否定し
た。
 さらに、運用実態については、合格者について男性208名に対して女性14名 で
あり、男女間の格差は圧倒的というほかない、と認定するほか、他の比較データでも
高卒男女での格差を認めるのであるが、判決は、女性も昭和60年に3名合格してい
ることや、合格者の学歴や勤続年数、推薦母体である受験資格者と退避した合格比率
も不明であるなどとして、男女別の推薦運用があるとは推認できないとする。また、
そもそも高卒女性の在職者が21名と少ないことからも、その中の1名しか転換して
いないというデータに統計的に意味がある数字とするには躊躇すると述べている。
  このように、判決は、推薦結果において「圧倒的な」差があることは認めなが
 ら、その差自体を差別の結果とみるような前述した欧米の差別理論には全く見向 き
もせず、むしろ格差が生じたデータそのものの不完全さを指摘するのである。
 しかし、そのようなデータの開示を原告が求めても、開示を拒否してきたのは被告
であり、それを容認してきたのが裁判所であった。情報開示を否定しておいて、デー
タの不足をすべて原告の立証責任に結び付けて原告を不利に扱う姿勢は、差別の立証
をほぼ不可能なものとするのに等しくはないだろうか。
  次に、判決は、各原告の業務実績や成績に照らして、転換が可能だったかどうか
を検討する。そして、石田、有森、矢谷、それぞれについて、一定の実績は認めるも
のの、会社の主張どおり、原告らが遂行していたのは、もっぱら執務職掌の 職務、
つまり推薦に結びついていく実績として評価できない職務であり、そこでの上司の評
価も標準的あるいはそれ以下であったというのであり、その評価が適正な評価を大き
く逸脱するとまでは認めがたいとして、原告らが推薦を受けることができなかったこ
とは著しく不当なものであったとは認められないとする。
 以上のとおり、推薦による転換制度の運用上の差別については、事実認定におい
 て、ことごとく原告の主張を否定もしくは差別の証拠が足りないとして差別を否定
している。既に述べたとおり、データ開示を被告に求めないまま、その言い分を丸呑
みにされたのでは、原告として差別を立証する手立てがない。突出した好成績の女性
が、そのとおりの評価を受けて、にもかかわらず、不当な待遇を受けているというよ
うな顕著な場合以外に、差別立証はほとんど不可能と言っているに等しい。

3 予備的請求の3
 この主張は、原告らが仮に推薦制度によって転換できたとまでいえなくとも、女性
は非管理職、非専門職という低い位置付けを行うという組織的な性的バイアスに基づ
く日常的な処遇を差別を認めてほしいというものだった。
 予備的請求の2の主張においては、会社に大きな裁量が認められている推薦による
転換というハードルを原告らが確実に飛び越えられたという難しい立証を要求される
ことになったが、仮にそこまでの立証はできないとしても、女性を低位に位置付ける
企業文化や職務配置の中で、会議に出席できない、出張を許されない、その他のエピ
ソードが物語る日常的な差別の継続があることを主張立証したのである。
 このようなエピソードは日本の企業で働くものにとっては、特に目当たらしいもの
ではなく、それだけに裁判所が認定しようとすれば容易に事実認定できる性格の事実
である。しかし、他方で、そういった日本企業に幅広く見られる差別的慣行を「慰謝
料」の対象たる差別と認定することは、仮にその額が低いものであっ たとしても、
社会的影響は大きい。 
 そのような点を意識したのかどうかは不明であるが、裁判所はこのようないわば常
識的事実ですら、事実として認定しないか、あるいはあったとしても上司個人の問題
であるとして、企業の差別としては認めなかった。原告が会議に出してもらえないと
証言すれば、女性が出ている会議もあるから、一律に女性の会議出席を制限している
とは認められないとし(一律の禁止だけが差別なのだろうか)、「女性は銃後の守り
に徹せよ」等、会社もその発言を特に否定していない上司の 発言についても、その
ような文言どおりの発言があったかどうかについてはその裏づけもなく確実性に乏し
いとし、仮にそのような発言があったとしても、それは当該上司の問題にすぎないと
して、企業内の差別的文化や慣行とは一切断絶して捕らえるのである。
  今日、性的な発言や表示が職場で日常的に繰り返されている場合、環境的セク
シャルハラスメントの問題として、その行為者である従業員の個人的問題としては
捕らえず、企業自身の問題として捕らえるというのが到達点である。性的に不快 な
環境ということとは異なるが、性に基づく日常的な男性との異なる取り扱いが 職場
で継続しているとき、それを特定の上司の問題であるとか、単発的エピソードにすぎ
ないという捉え方はあまりに表層的である。職務に直接関係しない性的 発言は不法
行為として捉えやすいが、日常職務に直結した性的バイアスに基づく 取り扱いは、
「職務の違い」として見過ごされてしまう。本裁判所は、まさに後 者の立場を取っ
たのである。




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