「脱ゴ−マニズム宣言」裁判 『控訴審判決』 検証討論 はじめに ◆ 「原判決主文第一項を次のとおりに変更する」。  一瞬頭が真っ白になり、あとは「出版、発行、販売、頒布してはならない」という 言葉が頭の中を駆け巡っていました。30数年生きてきて、現実に「背筋が凍る」と いう体験はこれが初めてだったかもしれない。直後、誰かに話しかけられた憶えはあ るのですが、「(判決文を)読んでみなきゃ判らない・・・」、と、一人言のようにつ ぶやいていた記憶があります。もう放心状態(笑)。   記者会見は判決直後の予定だったのですが、私、高橋弁護士に、「夕刊なんかに 間に合わなくていいから、午後に延期してほしい」と頼みました。高橋さんも、ほぼ 同意。氏はその足で「判決文」の入手に走り、私たち傍聴者は弁護士会館での「報告 集会」へと向かったわけです。 ◆ 多少気持ちが落ち着いてくると、次の思いは、「どのカットだろう・・・」。「引 用」と認めてもらえないカットがあったのか、それとも「目隠し」か。前者だと思う と気が遠くなるようでしたね。例え一カットでも引用がアウトなら、その一カットに 限り、小林の「ドロボ−」発言が正当性を持ってしまうことになるのだから。  高橋弁護士が戻ってくるまでは、ホント長く感じられました。ちなみに、会場に入 ったら先ず貼ろうと思っていた「タイトル幕」は出せずじまい。だって、「よしりん ごめんね また勝っちゃいました」っていうんだもん(笑)。そりゃ、出せんぜ(の ちに出しましたけどね)。 ◆ 結局あの「配置変更」カットだったことが判って、一同ほっと一安心。(紛れ込 んでた、よしりん派の暗い青年はガッカリだったかもね。笑)  しかしあのカットだったとは・・・。全く、予想してもいなかった。  それでもまあ、「完全勝訴」と胸を張ってよい内容でしょう。安心して、一時間遅 れで記者会見に向かった上杉さん、今東社長たち。  本当によかった。 ◆ さて、二審「判決」です。  仲間との討論を通じて検討してみました。ご笑覧下さい。 ------------------------------------------------------------------------ 参加者 三上 秋津(男性/30代半ば 横山の親友) 江原 千絵(女性/20代前半 「楽しむ会」) 横山 好雄(男性/30代半ば 「楽しむ会」) ------------------------------------------------------------------------ マスコミ報道 横山 「判決」、出たね。文句なし「完全勝訴」でいいでしょ?。 三上 それ、解釈の違いなんじゃないか。小林は『脱ゴ−宣』の出版差し止めを 求めてたんだからさ。その意味じゃ「完全勝訴」って言うわけにゃいかん だろ。「判決文」上は小林の求めたとおりの「主文」になってんだぜ。 江原 じゃあ夕刊の「逆転勝訴」って見出しも当然ってこと?。 三上 ある意味、当然なんじゃないかな。だって一審では、「出版差し止め」な んて認められなかったわけだから。今回はそれが・・・ 横山 お前の言うことは解るよ。でもな、「逆転勝訴」はいくら何でもミスリ− ドだろ。本質を伝えなさ過ぎる(笑)。 三上 心情的には俺だってそう思うよ。けど逆の立場になりゃそう思う筈だよ。 「一部認容」なんて書かれたら「ふざけんな、逆転勝訴だろが」ってね (笑)。 横山 秋ちゃんって、いやなとこ突くね(笑)。そう言われると俺も・・・ 江原 ちょっと待ってよ。やっぱりおかしいよ。だって小林さんの主張は「無断 転載」に基づく「著作財産権」での出版差し止め要求でしょ。そこは全然 認められてないじゃない。「同一性保持権」は「著作者人格権」なんだか ら、全然別の法体系でしょ。やっぱり「誤報」よ。 横山 そうだぞ、秋ちゃん。千絵ちゃんの言うとおりだ。 三上 お前、ホントころころ変わるな。確かに別々の法体系だよ。小林にすり ゃ、瓢箪から駒だな。でも結果、見出しは同じになることまでは責められ ないよ。 横山 お前、「毎日」の回し者か(笑)。 江原 そうよ、「読売」みたいに書けばいいことじゃない。もう、私頭にきて 「毎日」に電話しちゃったんだから。 横山 俺は「読売」にかけたぞ、「よくやった」って(笑)。 三上 (笑)。本文読みゃ、解る人は解るだろ。 江原 そういう問題かしら。「見出し」の印象ってやっぱり大きいよ。「読売」 と「毎日」じゃ天国と地獄じゃない。 横山 確かに。「漫画引用、二審も『適法』」と、「小林さん逆転勝訴」じゃな (笑)。 江原 「産経」なんて、「ゴ−マニズム宣言無断引用」だよ。どこまでタチ悪い のかしら。 横山 しかし今回「朝日」は腰引けてたな。一審の時がスゴ過ぎたってのもある けど。「日経」より小っちゃくてどうすんだ(笑)。 三上 (笑)。冗談はおいといてさ。まあ、見出しだけにごまかされて小林の主 張が通ったなんて思ってる「困ったちゃん」達をちゃんと啓蒙していかな いとな。さあ「楽しむ会」も忙しくなるぞう。頑張んなきゃ。 横山 お前、「楽しむ会」じゃないじゃん。 高裁の判断 一 引用における附従性について 横山 ざっと全体を読んだ感じじゃ、一審判決より突っ込んだ書き方でだいぶ明 確になったね。 三上 順を追って検討していきますか。先ず、「1 引用の目的について」。 江原 よしりん主張の「カットをして語らしめる為の採録だ」ってホントすごか ったよね。横山さんの「反論」でそれ知った時、私、魂が浮遊したよ( 笑)。さすがに判決も「バカ言ってんじゃないわよ」って感じだね。 三上 裁判官もたまらなかったんじゃないかな。でも判決に「バカ言ってんじゃ ねえよ」とは書けないし(笑)。 横山 [しかし、カットを取り去った場合に文章がつながらなくなるとしても、 そのことをもって、直ちに、本文そのものの重要な部分を〜]とか、[カ ットを取り去った場合に、文章がつながらなくなる原因としては、様々な ものがあるからである]なんての見ると、裁判官ってのも大変だなあって (笑)。 三上 まあここは、お前の「反論」で全て言い尽くしてるな。 江原 次、「2 両著作物のそれぞれの性質・内容について」だけど、ここも判 決は簡単だね。 三上 基本的に、全て一審判決で詳述されてるようなもんだからね。二審の判決 ってこういうもんなんじゃない。 江原 ここは例の、「アイキャッチ力、商品価値」の所だよね。 横山 [しかし、文章が、商品価値や情報量において、漫画カットに劣るとして も、そのことをもって、文章が漫画カットに対して、主従関係に立てない というものではない]。はっきりしてるね。当然のことだけど。 江原 でも私、ここ気に入らない。「文章」が商品価値や情報量において「漫画 カット」に劣るって決めつけてる感じで。「憲法九条」をプリントした 「Tシャツ」って無かったっけ?。小林なんかのカットより、よっぽど 「商品価値」あるんじゃない。それに「情報量」なんて言ったって、そん なの人の感じ方次第で千差万別でしょ。 三上 まあまあ。ここはそんなに怒らなくても(笑)。 横山 問題は次の箇所だよ。[被控訴人書籍に引用された控訴人カットは、控訴 人漫画のごく一部にすぎず、被控訴人書籍の前記主題に係る批評、批判、 反論に必要な限度を越えて、控訴人漫画の魅力を取り込んでいるものとは 認められない]。これどう思う。 三上 また出たか、「ごく一部に過ぎず」。これ、お前がずっと疑問を呈してる 文句だよな。相当うっとうしいんだ。 横山 誤解を生みやすいだろ。「一部」じゃなきゃダメなのかって話だよ。 江原 私も横山さんから聞いててずっとそう思ってたんだけど、これ、あくまで 今回のケ−スでね、あくまで『脱ゴ−宣』での採録はよしりん漫画の「ご く一部に過ぎない」って、そういうふうに読めばいいんじゃないの。 横山 いや、誤解を招く。わざわざ入れる文言じゃないよ。いっそ、もっとすっ きり、「被控訴人書籍に引用された控訴人カットは、被控訴人書籍の前記 主題に係る批評、批判、反論に必要な限度を越えて、控訴人漫画の魅力を 取り込んでいるものとは認められない」、これだけで十分だろ。 三上 確かに、十分だとは思うけど・・・。でもこれだって、じゃあ「必要な限度」 は、ってことで議論にはなるぜ。 江原 何か、前もって釘刺してるのかなぁ。丸々「一章」引用した批判本とかが 出ないように・・・。 横山 じゃあ、「被控訴人書籍に引用された控訴人カットは、被控訴人書籍の前 記主題に係る批評、批判、反論に必要な採録であり、控訴人漫画の魅力を 取り込んでいるものとは認められない」。これでどうだ。 三上 そこまで変えて何の例だよ(笑)。裁判長か、お前は。 横山 とにかく、俺は解せん。 三上 「3 分量について」だな。 江原 「漫画カットであることから、直ちにそれに対して文章が主と認められる 為には、文章の方が量的にみて圧倒的なボリュ−ムがなければならないと いうものではない」。あれま、当然(笑)。 横山 「面積」(笑)云々も簡単に退けられたな。 三上 そのカットの「採録頁」で文章とカットを較べろなんて、アホらしくて聞 いてられないよってことだな。でもここ、実例を挙げて意外にも丁寧に判 示してるよね。 横山 俺達は「アホらし」と思ったけどさ、裁判所にしたら今後の事案に備えて 丁寧に論じておいた方がいいって判断したんじゃないかな。何しろ、これ が「漫画引用」の判例としては先例になっていくわけだから。 江原 それと、この箇所も重要だよ。[そして、その批評、批判、反論が多岐・ 多面的にわたればそれだけ引用する漫画カットの数も増加することになる のは、やむを得ないところである]。「引用数」の多少は「主従関係」に 影響を与えるものではないって、はっきり認定したようなもんだよね。 横山 なっ、ここでこういう言い方するんなら「ごく一部に過ぎず」っての、や っぱり変だろ。 三上 いや、論じてる「対象」が違うんだから矛盾は無いんじゃないか。 江原 そうよ、横山さん、こだわり過ぎ。 横山 お前らなぁ、「判決」から「整合性」読み取りたいって思うの「当たり前 田のクラッカ−」だろが。 江原 何それ。 横山 いいんだよ、好きなんだから。とにかく俺はこだわるの。 三上 わかった、わかった(笑)。でもな、「ごく一部に過ぎず」っていうの は、小林の意見は「『各話』ごとに主張・表明されてる」んであって,引 用はその中からの「ごく一部」に過ぎないって言ってるわけだ。ここでは 『脱ゴ−宣』全体の中での57カットの引用数が多いかどうかを論じてる んだからさ、「対象」が違うんだよ。 江原 横山さん、読解力無さ過ぎ(笑)。 横山 次、「4 被引用著作物の採録の方法・態様について」。もうヘソ曲げ た。二人でやれよ。 三上 何て奴だ。千絵ちゃん、気にすんなよ。どうせすぐしゃべり出すから。 江原 ここ、「拡大複製」についてよね。「拡大複製する合理的必要性について は、疑問がなくはない」って言ってるけど・・・。 三上 でも、それが「主従関係を失わせるものではない」ってはっきり言明して るからさ。何の問題もないでしょう。 横山 どんなケ−スが疑問なんだよ。 三上 もう来たよ(笑)。ちょっとは辛抱せえよ。 横山 死ぬんだよ、黙ってると。 三上 どんなケ−スかなんて解んねえよ、この時点じゃ。 江原 でもさあ、『サピオ』から採った複製と、単行本から採った複製と、今度 文庫でも出てるんだからそこから採った複製とね。こうなってきたら、や っぱり初出の大きさが基準になるべきだよね。現実に複製したのは単行本 からだとしても、『サピオ』や『スパ』時に較べれば小さいんじゃない の?(笑)。 三上 へ理屈みたいだけど一理あるかな(笑)。 横山 いや、鋭いかもしれない。もし将来『サピオ』が廃刊になって(笑)、単 行本も絶版になって残ったのが文庫だけだったとしたら「拡大複製」しか 方法がないぞ(笑)。 三上 (笑)。確かに「判決」の「疑問」は余計だよな。「縮小」が何の問題も ないんなら「拡大」だって問題ないだろうに。まあ、限度はあるが (笑)。 江原 なんか裁判所の煮えきらなさが出てるよね。 横山 「5 主従関係についてのまとめ」だよ。 三上 [控訴人カットに独立した鑑賞性があることは認められるけれども、控訴 人書籍と被控訴人書籍の右関係に照らせば、そのことによって、被控訴人 論説と控訴人カットとの右主従関係が失われるということはできないので ある]。 江原 よしりんカットに独立の「鑑賞性」があるって認めたんだよね。びっくり したね。 三上 うん。でもちょっと言い過ぎのような気もするなあ。スト−リ−漫画の一 コマに「独立した鑑賞性」ってのはないだろう。お前、どう思う。 横山 ここは俺は好意的に解釈するよ。二審「判決」の中で一番価値ある部分だ な。 三上 何カッコつけてんだよ。さっさと言わんかい。 江原 そうよ、何カッコつけてんの(笑)。 横山 お前ら二人、なんやねん。 三上 もう先に言っちゃおう。「藤田事件」のあいまいさが完璧に払拭されたわ けだよな。今まで、「鑑賞性」のある態様での引用だと「付従性」が無い って思われがちだったけど、ここでそれをはっきり否定したわけだ。大進 歩だよな。 横山 おいしいとこ持っていきやがって(笑)。でもそう。一審判決ではこの点 については述べられていなかったんだ。二審で小林が「鑑賞性」にこだわ ってくれたおかげだよ。ある意味、小林は「引用」への大貢献をしたんだ よ。 江原 「藤田事件」をもとにして、鑑賞性があるから引用はダメって主張したの に、結果、鑑賞性があっても「主従関係」は成立するって判例を引き出し てくれたわけね。さすが、よしりん(笑)。著作権関係者にとっては恩人 だね。 横山 ある意味「判例」なんてものは社会常識の後追いだよ。カットを引用した 「漫画評論」なんて山のようにあるんだから。なのに小林の主張は「藤田 事件」のラインまで戻せってことだったわけだろ。裁判所はもうそれは無 理だって判断したんだよ。一審での上杉側提出証拠を見れば裁判所だって それ位わかるだろ。 三上 とにかく「藤田事件」のあいまいさが判決文の文言上、はっきり否定され たわけだ。何度でも言うけど、ホント大進歩だよ。 江原 でも皮肉だよね。よしりん、「115章」で、『コピライト』で大江修子 弁護士が[わしの絵の独立の鑑賞性を認めた]って嘘まで書いてたじゃな い。これって、「鑑賞性がある」なんていう主張が通るはずないって思っ てたからこそだよね(笑)。それが当の判決で認められちゃったんだか ら。 横山 うん。きっとここは過大に吹きまくるだろうね。「裁判所もわしの絵の独 立の鑑賞性を認めた」ってさ。 三上 「欄外」が楽しみだな(笑)。 二 同一性保持権侵害について 1 横山 みんなで大笑いした「二重の侵害」ってやつですな。 江原 「無断引用」された上での「改変」ってやつよね(笑)。 三上 そんなのでホントに「二重の侵害」って主張したのか?。すさまじいな。 横山 裁判官も呆れただけだろ。簡単に退けられてるよ。 2 (一) 江原 「風刺画」「似顔絵」だからって「他人の名誉感情を不当に侵害するな」 って明確に釘刺されてるね。 三上 一審より相当踏み込んで、はっきり「断罪」してると言っても言い過ぎじ ゃないよな。見事な判決だと思う。 横山 俺もそう感じたよ。「常識に照らして客観的なものとして判断している ぞ」って、小林は裁判所からそう宣告されたんだよ。こんな「不名誉な漫 画家」がこの先この国に生まれるだろうか。 江原 (笑)。 三上 (笑)。 横山 西野さんと梶村さん、二人の書面提出は大きかったみたいだね。 三上 うん、ここまでしっかり判決文に反映してくれるとは、正直思ってなかっ たなあ。 江原 川田君のもあれば完璧だったね。 三上 いや、そこは異論がある。これは結果論だけどさ、龍平君にその意志があ ったとしてもやらない方がいいと思ってたんだ。横山には伝えてたけど。 小林のことだから、そんなことしたら欄外で何書くかわかんないよ。誹謗 中傷は目に見えてる。やらなくてよかったんだ。 横山 そうかもしれないな。 江原 そうだね。 (二) 江原 まるで上杉さん側の主張のようだね(笑)。 横山 完璧。 (三) 三上 ここはお前の「反論」と若干ニュアンスが違うな。 横山 うん、「引用者の判断が全てだ」ってことしか言ってないからね。この判 決で述べられてる点は全く気付かなかったよ。 江原 私もここ読んで目から鱗だったな。考えてみればそうなのよね。他のカッ トに「目隠し」を入れてないからって、入れているカットが影響受けるこ となんて何んにも無いんだよね。 三上 入れたカットと入れてないカットとの間の「整合性」に縛られ過ぎたんだ な。向こうの主張にまんまとハマッタって感じだよ(笑)。 横山 ああ。とにかく、正直言って俺も目から鱗だった。 (四) 江原 横山さんの「反論」の「−7辺りを志向する」に近いよね。 横山 そうとも言える、かな(笑)。 三上 「その間の選択肢もあること」を明確に認めてるよな。まさにお前の「反 論」どおり。自信持っていいぞ。 横山 偉そうに言うな(笑)。 3 (一) 横山 俺、やばいとしたらこっちのカットだと思ってたんだ。だから「103章 /反論」の時も前回の「反論」の時も力入れたつもりだったんだけど・・・。 三上 そう言ってたよな。 江原 [「これを次の私が書き入れた手書き文字のようにするとわかりやす い。」との記述が存在することは、〜][右記述とともにカット27をみ れば、被控訴人書籍の読者は、〜][被控訴人が書き込んだものであると 明確に認識できることは明らかである]。やっぱり、「断り書き」が重要 だってことよね。 三上 「判決変更のカット」との絡みで考えるとこの部分は重要だな。 横山 相当重要だよ。 (二) 江原 私、この主張も魂が浮遊したよ(笑)。 三上 日本中がひっくり返った主張だな(笑)。 横山 判決もこんなの黙殺すりゃいいのに(笑)。 原判決の訂正 横山 俺、前回、「唯一勝ち取るものがあるとすれば、ここでの『改変』認定の 取消しだ」って書いたんだぜ。恥ずかしくて街歩けねえよ。 江原 大丈夫よ。横山さんのことなんか誰も知らないんだから(笑)。 三上 そうだぞ。そうやって大物ぶるのはよくないぞ(笑)。 横山 しかし想定外だったなぁ。このカットだとはなぁ。「勇み足」だったな ぁ。 三上 ボヤキ過ぎだよ。前見つめんかい。 江原 でも、私もまだ納得いかないのよねぇ。三上さんは割と醒めてるよね。 三上 これは通らんだろ、普通。俺は一審判決の方に驚いたぞ。 横山 ふんっ、お前なんか呼ぶんじゃなかった。「結果論」で言ってるだけだろ が。 江原 そうよ、そうよ、偉そうに。ちゃんと説明してみなさいよ。 三上 お前ら二人、なんやねん。 横山 なんで通らないんだよ。 三上 お前自身が前回の反論で「緩やかな解釈」と「厳格解釈」との二説につい て言及してるじゃないの。一審は前者、今回が後者。それだけのことだ よ。 江原 そう言ったら身も蓋もないよ(笑)。ちゃんと検証していこうよ。「学術 論文の改行」を例にしてるじゃない。けどこれ、ちょっと牽強付会のよう な・・・ 横山 そうだよ。文章の「改行」なんてもろに「思想・感情」だろが。 三上 ちょっと待てよ。だったら漫画のコマ配置だって「思想・感情」だろ。漫 画家に失礼だぞ。 横山 そういう意味じゃない。例えば「3コマ」なら、ABCの順に読ます意図 こそが「思想・感情」なんじゃないのか。引用の採録がそれを破壊した時 に「同一性」は崩れるんだ。「読者の一般的観念に照らして」ACBと誤 解されるようなコマ配置なら、それはまずいだろう。 三上 そうじゃない。お前の言う「読ます意図」、それが表現されたものがまさ に小林の原カットなんだ。その「並び」で、その「意図」が表現されてる んだ。その表現自体が「思想・感情」なんだよ。それを変えたんだから、 少なくとも「改変」であることは間違いない。 江原 なんか二人の「視点」がすれ違ってる気がするな。でも、一審判決も「改 変」であること自体は認定してたんだから、その意味では三上さんの言い 分が正しいような・・・。 三上 お前、「改変」認定にこだわり過ぎだよ。それを覆すのは無理だぞ。問題 は「やむを得ないものなのか否か」、それでいいじゃねえか。 横山 ・・・・・・・・・・。「コマ数」の問題はどうなんだ。現実に二コマなんだぞ。こ れじゃ横書きを縦書きに引用するのも「改変」になるぜ。 江原 判決は「三コマ」だって言うのよね。これはちょっとびっくりした。[し かし、カット37の第一、二コマには、女性が殴られているのを軍人が煉 瓦の蔭から見て驚いている場面と、軍人が業者に押印させているらしい場 面の二つの異なった場面が左右に書かれているから、第一、二コマは二つ のコマというべきである]。これ、いくらなんでもちょっと・・・。この理屈 でいったら、「朝、雨だったけど、午後からは晴れた。」、これは二文 (笑)。 三上 確かに、この「三コマ」認定はひど過ぎる。「漫画」の文法などまるで理 解してない。上に行く程「浮き世離れ」してるからな、裁判官って (笑)。きっと裁判証拠以外で漫画なんて読んだこともないんだろう。で も、フォロ−するつもりは無いけどさ、きっとここの意味は「概念上、二 コマだ」ってことなんだろう。現実に一コマであること位は理解してるん だよ。 江原 二コマでも、やっぱり「改変」?。 三上 文章の「横書き/縦書き」と同列に論じられるかは疑問だなぁ。 横山 けど文章の時、よくこういうのあるじゃん。実例として判決から読むぞ。 [被控訴人書籍は、右意見に対する批評、批判、反論を目的とするもので あること]、これ縦書きだから「右意見」って表現してるわけだろ。 三上 (笑)。言いたい意図は解るけど、ちょっとへ理屈だろ。 江原 それは私もそう思う(笑)。 三上 横書きだって「右のように」って表現することもあるだろ(笑)。 江原 でもやっぱり問題はあるよね。判決の論理でいけば『脱戦争論』25頁の 引用カットは一コマだよ。 三上 判決はこう言ってるんだよ。「そのコマのどの部分を、どの方向から指さ しているのか」、「そのこと自体が小林の『表現』なのだから」ってさ。 横山 「へ理屈」覚悟で言うよ(笑)。そうすると、「指さしのコマ」だけを引 用した場合な、「どのコマを指してそう言っているのかが私の表現なん だ」って言い方もできるだろ。つまり、指されているコマとのセットじゃ なきゃ「同一性保持権侵害」だって言い分だって出てくるってことだよ。 前回、「一コマの引用でも改変だと言い得るケ−スが必ずある筈だ」って 書いた所以だよ。 江原 そういう意味だったのか・・・。 三上 それは「文脈上の同一性」なんであって、また別の議論だろう。ちょっと 牽強付会だな。 横山 だから「へ理屈」覚悟だって(笑)。 江原 さっき、「やっぱり断り書きが重要」だとか「判決変更のカットとの絡み で考えるとこの部分は重要」とか言ってたじゃない。 三上 「第一、二コマと第三コマを、それぞれ別々に引用した場合は、読者は引 用された第一コマ、二コマ、三コマの位置関係が『ゴ−宣』での位置関係 とは異なっていることを理解できるのに対して、カット37のように引用 した場合には、読者は小林が『新ゴ−宣第30章』において、カット37 のコマ割を用いて表現したものと認識するものと認められる」。つまり、 「断り書き」で原カットは横一列であることを明示して、ちゃんと読者の 誤解を避けていれば「改変」とはならなかったと言えなくもない。「書き 込みのカット」との整合性から言えば、そう判断せざるを得ない。 江原 それとここは、さっきの横山さんの「へ理屈」への回答みたいなもんだよ ね。だって、「指さしのコマ」だけを引用したってその前に「指されてい るカット」があるだろうことは読者に容易に理解できるわけだから。 横山 もう、わかったよ。悪かったな、「へ理屈屋」で(笑)。 江原 でも「認識するものと認められる」って、ホントかな(笑)。せめて「認 識される恐れもある」位の言い方ならまだ納得なんだけど。 三上 まあ、そんなふうに「認識」する奴はいないわな。でも「著作権」の中で も「著作者人格権」はやっぱり厳格なんだっていうことがよくわかった ね。「著作財産権」と較べても相当厳格に運用していくぞっていう裁判所 の宣言のような気がしてきたよ。それ自体を否定するつもりは、俺は全然 ないなあ。 横山 勿論、俺だってないさ。ただ、まだ「やむを得ない改変」の問題が残って るだろが。 江原 それ、ここでやるの?。 三上 やるの?。 横山 やんない(笑)。上杉側は「上告」を決めたわけだからね。ここで、ああ こう論ずるのは筋違いだよね。 江原 言えるほどの「論理」もないんでしょ(笑)。 横山 ホントこの2年間でズケズケ言うようになったよな。最初はうつむいて 「はい、はい」しか言わなかったくせに(笑)。 三上 お前だって最初は「お姫様」のように接してたじゃねえか。最近じゃ「ツ ッコミ」でチョップとかしてんじゃん(笑)。変わり過ぎだよ。 江原 そうだよ。それって「セクハラ」じゃない(笑)。 横山 何言ってやがる。さんざん「だから彼女もいない」だとか「だから独身」 だとか言いやがって。逆セクじゃねえか(笑)。 三上 わかった、わかった(笑)。まあ、あと残りどれくらいだかわからないけ ど、これからも3人で協力して「楽しむ会」をやってこうや。 横山 だから、お前「楽しむ会」じゃないじゃん。 江原 私とだって、今日初めて会ったんじゃない(笑)。 ◆ お後がよろしいようで・・・。 ------------------------------------------------------------------------ 収録日時 : 2000/4/30 収録時間 : 2時間20分 収録場所 : 荒川の土手(浦和市) 再構成/横山 好雄(2000/5/3)