名誉毀損の提訴にあたって

上杉 聰

 9月8日、私は、小林よしのり氏のマンガ(「新ゴーマニズム宣言第五五章」)に「ドロボー」と描かれ、『SAPIO』と『新ゴーマニズム宣言第五巻』に掲載された(ている)ことに対して、東京地裁に名誉毀損事件として提訴いたしました。川田龍平君をはじめ多数の個人の名誉を、マンガを使って傷つけてきた彼ですが、私に対しても同じ方法をとりました。幸い私の場合、彼が著作権侵害で訴えてくれたおかげで「正当な引用」であったことが法廷で認められ、名誉回復をある程度果たすことができました。しかし、それは多数の皆さんの支援に支えられ、多くの費用と時間を費やして、ようやく勝ちとられたものでした。もし、著作権裁判に負けていれば、あるいはそうした勇み足をもし彼がしていなければ、『SAPIO』数10万人の読者への私からの反論は届けられないままに終わったことでしょう。また判決が出るまでの間は、不名誉なそしりを受け続けてきましたし、単行本によって、今も被害を受け続けています。そして本来は、たとえ訴訟で私が負けていたとしても、「ドロボー」とまで言われる筋合いのものではありませんでした。多くの方々が、小林氏のマンガによる暴力に立ち向かう条件に恵まれず、泣き寝入りを強いられたり、あえて彼の文筆活動を無視することで自らを守ってきました。しかし、私自身の被害を回復することが同時にマンガによる暴力の被害をこれ以上出さないことにつながると考え、またマンガ文化の退廃を防ぎマンガを愛する姿勢を貫くためにも、今回提訴しようと決心しました。私自身も決して経済的にも時間的にも恵まれた状況にあるわけではありません(そのため出廷などはすべて割愛します)が、楽しむ会に支えられて今回の訴訟にこぎつけました。上告中の裁判(年内に判決が出ると思います)に加えて、この名誉毀損裁判にもひきつづきご支援をお願いする次第です。

以上