地裁判決をめぐり、小林批判相次ぐ -------------------------------------------------  8月31日の上杉氏の勝訴判決を、いくつかの雑誌 が取り上げてくれました。  まず『SPA!』誌(9/22号)で、映画評論などで 有名な四方田犬彦氏が、「次は火だ!」と題する連載 の中で本判決を取り上げ、「漫画批評家にとって、ま たとない朗報」と小林敗訴を評しました。カットの引 用ができず、いちいち漫画家の許可を取っていたので は「批評は成り立たない。漫画批評家と編集担当者 は、つねにこの問題で頭を悩まされてきた。それでは 漫画家の提灯記事は書けても、より高い次元での批評 が困難となる場合が多いからである。現在、漫画批評 家と編集者の間には、こま引用の問題をめぐって、シ ンポジウムを開こうという機運が広がっている」とい う。  また『週間金曜日』誌(9/17号)では、松沢呉一氏 が「小林よしのり氏敗訴で変わるマンガ批評」と題し て、今回の判決を著作権法とのからみで詳しく解説し ている。「絵やマンガでも引用できる」と、わかりや すく漫画を引用しつつ説明するとともに、逆に「小林 氏の似顔絵が名誉毀損に当たる可能性を示唆した」と も評している。これまで出版界では、著作権法に無理 解な編集者が多かったため、小林氏が上杉氏の本を違 法な引用と錯覚する基盤があったことを示唆して興味 深い。  いっぽう、小林よしのり氏は、『SAPIO』誌 (10/13号)に「新ゴーマニズム宣言」第103章 「『引用』と称する『便乗本』時代の幕開け」と題し て、合計16ページにわたって地裁判決をこき下ろ し、怒りまくった。その主張は、地裁での主張そのま まで目新しいものとしては、デマくらい。しかし、裁 判の経過を知らない人には十分の説得力があり、ギャ グもなかなか面白い。  さらに今週末(10月7〜9日頃)に発刊される 『創』と『噂の真相』の11月号にも記事が掲載され る。『創』では、上杉氏本人が「漫画引用は漫画を育 てる」と題して、今回の判決にいたる上杉氏側の論証 内容と判決の意味を裁判の内側から披露する。眼から ウロコの漫画論が展開されていて、小林が敗訴した理 由が詳しく説明されているという。小林氏の103章 にも言及しているらしく、それへの反論の決定版とも いう。  いっぽう『噂の真相』11月号は、「イチャモン的 訴訟で全面敗訴となった小林よしのり『ゴーマニズ ム』の破綻」と題して、例によって興味がそそられる 裏情報を満載とのこと。  こうしてみると、上杉氏支持の記事対小林氏支持の 記事の比率は4対1で、上杉氏に断然有利。高裁判決 もこの調子で行ってほしい。最近は、毎日や朝日でも 漫画引用がすこしずつ始まっている。漫画引用本も相 次いで出版されている。「楽しむ会」や上杉氏が把握 した漫画引用本は、以下のようにすでに12冊におよ んでおり、近くまた新たに出版される予定の本も別に ある。小林氏が103章を「『引用』・・時代の幕開 け」と題したのは、あながち的外れではない。・・・ 「幕開け」ということは、高裁でも小林氏が敗訴する ことをを自から認めている???? なるほど・・。 ------------------------------------------------- 漫画引用本リスト アルマン・マトゥラール著『ドナルドダックを 読む』(晶文社) o 同書の後書きにもあるように、ディズニー はこの本に対して訴訟を起こすことができ なかった(103章欄外に「訴訟を起こさ れた」というのはデマ)。 ジョン・G・ラッセル『日本人の黒人観』(新 評論) 夏目房之介『マンガ青春列伝』(マガジンハウ ス) 同 上 『マンガはなぜ面白いのか』(NHKラ イブラリー) 同  上 『マンガと「戦争」』(講談社現代新 書) 同  上 『笑う長嶋』(太田出版) ロフトブックス『教科書が教えない小林よしの り』(ロフトブックス) 呉 智英『マンガ狂につける薬』(メデイアフ ァクトリー) 永井 哲『マンガの中の障害者たち』(解放出 版社) 梶井 純『執れ、膺懲の銃とペン』(ワイズ出 版) 四方田犬彦『漫画原論』(筑摩書房) 長尾 剛『「じゃりン子チエ」という生き方』 (双葉社) 以上、いずれも漫画の著者の了解なくカットを引用し たことを確認済み。