第三回 口頭弁論報告 「楽しむ会」 三上秋津

 

 明けましておめでとうございます。

 本年も変わらぬご支援、ご注目をどうぞよろしくお願いいたします。

 

 12月26日、三回目の名誉毀損裁判です。本日、傍聴席は12名。(ちなみに上杉氏は欠席でした。そりゃ年末のこの時期、これだけの為に大阪から来るってわけにもいかんでしょう。)小林側は、トッキ−と、担当の編集者が本日も真面目に傍聴していました。

 ホ−ムペ−ジで期日を知り、終了後の報告会まで参加してくれた方が一名。貴重な(厳しい)ご意見も聞かせて頂きました。感謝。次回もぜひ。

 

 普通、民事裁判における弁論は事前提出の書面において陳述に代えられ、次回期日を決めてアッというまに終了というのが常なのですが(事実、前「著作権裁判」では長くても10分程度でした)、この裁判は、裁判長の性格もあるのでしょう、異例です。本日も何と30分を費やし双方の応酬が見られました。傍聴している立場からすれば、面白くってしょうがない。

 内容的にはまだ前回の延長という域を出ていません。と同時に、ここまで双方の間で一体何が齟齬となっているのかも明確に見えてきつつあります。

 第二回弁論における被告(小林・小学館)側質問に対して、上杉氏は追加の準備書面を今回提出したわけですが、それが何ら回答になっていないと被告側は切り返しました。裁判長は被告側求釈明に則った形で高橋弁護士に質問します。

 裁判長「不細工に描くことが名誉毀損に当たるという事と、ドロボ−の恰好をさせて描くことが名誉毀損に当たるという事とでは意味合いが違うと、そう裁判所は認識しているのだが、そういう認識でよいのか」、高橋「はい」、「そうなると、ドロボ−まがいの事をしたと、そう描かれた、そういう『事実の摘示』を指して名誉毀損と言っているのか、ドロボ−と表現するそのこと自体が名誉毀損だと言っているのか」「どちらかと問われれば、ドロボ−という表現が名誉毀損に当たると・・・」「そうすると、そういう『評価』の仕方が問題だということか」「いや、著作権侵害行為でもないのに著作権法違反をしたと、そういった『事実摘示』も当然に含まれます」「故意・過失は?」「入念な調査なしに著作権法違反だと断じたという点においては、当然過失はあると」「要するにあれですね、『真実と信ずるに足る相当な理由』、それが無いと、そういうことでよいのですか」「はい」。

 大まかにポイントだけを抽出するとこうなります。実際はこの数十倍の言葉を費やしながらやり取りされているわけですが、すいません、速記の能力が追いつきません。

 また、今回は小林代理人の中村弁護士がよく喋りました。

中村「どうして醜く描かれることが名誉毀損に当たるのか。原告は、どのような事実摘示を指して、それがどういう意味合いで社会的評価を低下させたと言っているのか。『絵』によってということだが、ではその絵によって具体的にいかなる社会的評価を低下させたのか、それが前回の書面では解らなかった」。(今回追加の準備書面でもそれは同じであるという主旨。)  

これら一連のやりとりを経た後、裁判長は述べます。「まぁ今ここで結論を出せということではありませんから、もう一度今までの点を踏まえて見解を出して下さい、再反論という形で」。

 

 弁論はまだまだ続きます。前回もポイントだった「肖像権」の問題です。

 中村「原告が挙げている肖像権の定義なんですが、これがどこから出てきたものなのか」、裁判長「定義についてはもっと正確に主張して下さい。それと、前回の『人格権侵害』との兼ね合いではどうですか」、高橋「広い意味での『人格的利益』ということで、その中に肖像権が含まれるのだと、そう裁判所が判断するのであればそれはそうかもしれません。しかし原告としては、やはり、あくまで狭義の『肖像権』ということを問題として主張している」、裁「肖像ということであれば、まぁ似顔絵も肖像と言えるわけですが、では似顔絵を描かれるのも肖像権侵害だということか」。

 これに対し、「度合いの問題」「その似顔絵に付随する主張(一枚の写真ならキャプションに当たるような)の問題」などを高橋さんは回答したように記憶します。対し、中村弁護士は要旨次のように述べました。

「一般的な肖像という言葉と『肖像権』を分けて考えてほしい。あくまでも肖像権ということであれば、先ずそれについての議論が必要だ。肖像権とは何か、判例が言っている肖像権とは何なのか。表現の自由との兼ね合いの中での比較考量等・・・。それでも人格的利益の問題はそれはそれで残るので、しかる後、人格的利益についての第二の議論に入っていく」。

 この裁判最大のポイントです。

 

 今回、小林側はしきりに「論争の一環」を強調しました。「ドロボ−発言」は「従軍慰安婦論争」という大きな流れの中での小さな一局面に過ぎず、そういった些末な現象に拘泥するなというわけです。絶句・・・、唖然、呆気・・・。何言ってやがるって話ですね。まさにその「従軍慰安婦論争」の中で登場してきた自身への批判書を、先に闇に葬ろうとしたのはどこのどいつだったのか。呆れてものが言えません。

 高橋弁護士は、「『著作権法違反だ』と公表することや『ドロボ−だ』などと公言することは(論争の次元において)別」だと反論。当然のことです。

 大体、こんなことまで言い出せば、この世に「論争の一環」でないものなど少ないのではないか。泥仕合(中傷合戦)に至るあらゆる原因は、結局全ては大元の「論争に起因する」とも言えるわけだから。

この後ひとしきり「『論争』論争」になったのですが、こんなことがこの裁判に何の関係があるのか、正直私にはさっぱり解りません。それでも小林主張の意図はよく解ります。「論争の中で起こったことを名誉毀損だとして言論弾圧してくる上杉」という構図を作りたいのでしょう。ふんっ、バカバカしい。天に唾してどうする。

 終わり近く、裁判長は原告に要求しました。「一つはっきりさせてほしいのだが、あの漫画を読者が見た時、「ドロボ−(文字どおりの)だと思うのか」、「ドロボ−まがいのことをしたと思うのか」、「著作権侵害をデフォルメしてそう表現したものと思うのか」、そこら辺りを、平均的読者が読んだらどう思うのかを示したらどうですか」。

 この時点では裁判長の意図が全然解らなかったのです。だって文字どおりの「ドロボ−(刑法上の窃盗罪の犯人)」だと思う人なんているとは思えませんもん。誰だって「デフォルメ表現」だと思いますよね。(しかし「ドロボ−まがい」は十分有り得ます。)次の日、被告側書面を読んで、裁判長の意図がよーく解りました。何と小林さん、本気で(?)こんな求釈明を出していたんですね(笑)。

最後に裁判長はこう述べました。緊張続く傍聴席に笑いが起こった瞬間です。

(高橋弁護士に対して)「論点としては非常に新しい、難しいものだとは思いますが、決していじめてるわけじゃなく、議論を拡散させない為の裁判所の要求ですから」。

 厳しいけど、魅力的な裁判長です。(今春、異動になりませんように・・・。)

 

  次回口頭弁論  

  2001/2月13日  4:00〜 722号法廷

 

 乞!! 傍聴