領置品の総量規制問題

全国の刑務所・拘置所等で在監者の領置品の総量規制がはじまっている。

本年4月23日に公布された省令により、10月1日より施行されたものである。省令の内容は、各施設の所長が、衣類臥具(がぐ)については被収容者一人あたりの種類と数量を定め、それ以外のものについては倉庫の保管容量を収容定員で割った一人あたりのスペースから衣類臥具分の容量を引いた範囲内にさせる、それを越える物品の購入や差入は許さないことができる、というものだ。そして現在それを越えている場合は6ヶ月毎に減らしていき3年後には一律に規制しようというものである。

施設によってその運用には差があるわけだが、東京拘置所の場合では、こうして計算された一人あたりの保管量は30cm×32cm×48cmで46リットルの領置箱(みかん箱程度)2箱半分であると告知されている。
この中に衣類や書籍等すべてを保管しなければならないというのだ。収容期間のきわめて短期な人、あるいは、頻繁に宅下げ、差入を繰り返してくれる家族や支援者のいる人(もしくは、頻繁に廃棄・購入を繰り返せる大金持!)でもなければとうてい収められる容量ではない。裁判資料についても、裁判所から直接送付される文書以外は、弁護人からの公判記録の差入であってもすべてこの総量内に規制するというのであるから、防御権の重大な侵害でもなる。そしてこの措置は未決被拘禁者ばかりでなく、死刑確定囚や懲役受刑者にも適用されている。

在監者の権利と獄中生活の実態を無視したこの規制によって、全国で多くの獄中者が所持品の廃棄や宅下げを迫られ悲鳴と怒りの声があがっている。また、施設の職員も省令と現場との板挟みになって悩んでいる様子も各地からの報告にはうかがわれるのである。

省令によれば施行6ヶ月後(来年3月末)には施行時超過数量の1/4が廃棄ないし宅下げされなければならなくなる。
規制撤回の取組が早急に求められている。
また、各施設の運用実態等、お気づきのことがあれば寄せていただきたい。(寄せられた情報はホームページ上で公開することもありますのであらかじめご了承ください。)
(10・22記)


資料東京拘置所の面会待合室の掲示

平成9年10月1日から、被収容者の領置物の管理に関する規則(平成9年法務省令第38号、以下参照)により、被収容者の1人当たりの領置物(衣類臥具類の種類ごとの個数及び衣類臥具以外の物)の保管量の上限が設定されることとなりました。つきましては、被収容者の領置物の保管量が上限を超えるときは、差入れ(郵送も同様)をお断りする場合がありますので、ご承知おき願います。(以下、省令の条文を記載)

資料松江刑務所の接見待合室の掲示

平成9年10月1日から、「被収容者の領置物の管理に関する規則」(平成9年法務省令第38号)の施行に伴い、被収容者一人当たりの衣類臥具の種類毎の個数、衣類臥具以外の物の保管量が設定されたことに伴い、物の差し入れが制限されることがありますので、差し入れの際にはご注意下さい。

省令 ○法務省令第三十八号

 監獄法(明治四十一年法律第二十八号)第五十三条第一項の規定に基づき、被収容者の領置物の管理に関する規則を次のように定める。

 平成九年四月二十三日          法務大臣 松浦 功

被収容者の領置物の管理に関する規則

(趣旨)

第一条 この規則は、領置物の適正かつ良好な管理を図るため、被収容者一人当たりの領置物の総量並びに被収容者の自弁物品の購入及び差入れに関し必要な事項を定めるものとする。

(定義)

第二条 この規則において「被収容者」とは、監獄(監獄法第八条第一項の規定により監獄に附設された労役場及び監置場を含む。)に収容されている者をいう。
2 この規則において「領置倉庫」とは、被収容者の領置物の保管の用に供するために設けられた工作物をいう。

(衣類臥具の種類及び個数)
第三条 所長は、衣類臥具について、被収容者一人当たりの領置に係る種類及び種類ごとの個数を定めるものとする。
2 前項の種類及び種類ごとの個数は、被収容者の法的地位、性別等を勘案して定めなければならない。
(衣類臥具以外の物の保管量)

第四条 所長は、衣類臥具以外の物について、被収容者一人当たりの領置に係る保管量を定めるものとする。
2 前項の保管量は、領置倉庫において領置物を保管することができる容量を収容定員で除したものから前条第一項の規定により定めた衣類の総数を保管するための容量を減じたもの、領置物を保管する容器の形状等を勘案して定めなければならない。

(衣類臥具の購入)
第五条 所長は、被収容者が衣類臥具の購入をする場合において、第三条第一項の規定により定めた種類ごとの個数を超えるときは、その物の購入を許さないことができる。

(衣類臥具の差入れ)
第六条 前条の規定は、衣類臥具の差入れについて準用する。

(衣類臥具以外の物の購入)
第七条 所長は、被収容者が衣類臥具以外の物(飲食物を除く。)の購入をする場合において、第四条第一項の規定により定めた保管量を超えるときは、その物の購入を許さないことができる。

(衣類臥具以外の物の差入れ)
第八条 前条の規定は、衣類臥具以外の物(飲食物及び金銭を除く。)の差入れについて準用する。

附則

(施行期日)

1 この省令は、平成九年十月一日から施行する。

(経過措置)
2 この省令の施行の際現に領置されている衣類臥具の種類ごとの個数又は衣類臥具以外の物の容量(以下「施行時領置数量」という。)が第三条第一項の規定により定めた種類ごとの個数又は第四条第一項の規定により定めた保管量(以下「基準保管数量」という。)を超える被収容者については、次の上欄の期間に限り、それぞれの下欄に掲げる数量を、その者の第三条第一項に規定する種類ごとの個数又は第四条第一項に規定する保管量とする。
本省令施行の日から六月間:施行時領置数量
右期間経過後の次の六月間:施行時領置数量から基準保管数量を控除した数量(以下「施行時超過数量」という。)の四分の三に基準保管数量を加えたもの
右期間経過後の次の六月間:施行時超過数量の二分の一に基準保管数量を加えたもの
右期間経過後の次の六月間:施行時超過数量の四分の一に基準保管数量を加えたもの
右期間経過後の次の一年間:施行時超過数量の八分の一に基準保管数量を如えたもの

全国の在監者の声から

(放送による告知だけだったり、職員によって、また、時期によって対応が異なったりしていることから、以下の報告は必ずしも正確ではありませんが、在監者がどのように今回の措置を受け止めたかを示すものとして参照ください。正確な情報が被収容者に伝えられていないことも問題です)

●宮城刑務所:

・・・来年の4月頃から、私の場合、本の差入が不能になると思われます。家族からの書籍差入の拒否は現行の法律からは極めて問題があり、おそらく、そのような事態になれば、誰かが訴訟を起こすでしょう。・・・違法性が強いとしても、裁判で白黒の決着がつくまでは、官側による「差入れ制限」(事実上の差入拒否)は続くと思われます。・・・緊急事態と言わざるを得ません。来年の3月頃には「本」「訴訟書類」「使用済ノート」「信書」等の宅下げを行う予定ですので、保管スペース等考えておいてください。(家族あての手紙より)

●東京拘置所

(多数の声が寄せられているがここでは9月1日の最初の告知放送を聞いた段階での2人の声を紹介する):Aさん「ムチャクチャな法務省令が出ました。『10/1以降、領置できる物を30cm×33cm×49cmの箱(48リットル)2個半までとする。それを越える差入れと購入は禁止する。半年間は現在の量を認めるが、3年後に2個半にする』
海外旅行の荷物より少ない! はんてん1着で1箱終わり。私みたいに年鑑や大辞典を抱えていると本も持てない。・・・くそ、腹の立つ!」

Bさん「9月1日の夜7時のニュース(その日の昼のニュースを録音、編集したもの)の後、「告知放送」。何でも法務省の省令が出て、全国一律に行刑施設での個人領置物の量を制限するという。房内の整理かご(プラスチック製の、銭湯の脱衣かご風。やや台形風)の2.5倍とのこと。この制限量以上に持っている人に対しては、6ヶ月の猶予期 間のうちに何とか始末せよ、制限量以上の人は自弁購入・差入を制限するとのお達し。考えてしまいました。たった1年しかいない私でも、きっとこの制限ぎりぎり。もっと長く居る人は? それに、家族、友人に頼んで宅下げして貰える人はまだしも、身寄りも知人もない人など、思い出の詰まった品々をむげに捨てろと言われるに等しいのでは ? おかしい。すごくおかしい。」

●岐阜刑務所:

領置物品の制限についても9月12日に告知がされてきたよ。例えば領置できる本の数を制限するってことらしい。勉学の本がけっこうある私にしては困ったことである。宅下げ・差入などそう頻繁にやっておられるかっての! こんな遠くまで連れてこられて不便この上ないというのに! いやはや困ったものだぜ。これ法務省令第36号だったか38号だったか、ちょっと忘れたが。その省令に基づくことのようだ。

●大阪拘置所:

・・・大阪拘置所では(3箱のうち)1.25が衣類、1.75が本、日用品、訴訟資料等、と規則される事となっています。・・・訴訟関係用資料一つ取っても私の場合は約10ケース位あり・・・速やかに裁判所の判断を求める予定です。本や衣類関係が合計で約50ケース程ありますので、これについては協力する事は吝かではありませんが、さてどうなるでしょう。拘置所の放送では指導に従わない場合には「公務所等からの送付書面以外で、弁護人からの裁判資料の交付の場合は自費を以って返却する事とする」とのラジオ告知がありましたが、当然、刑事裁判所をも巻きこんでの提訴となるでしょうね。告知放送は以下のようなものでした。

10月1日付、領置物品の管理に付
(1)1人当りの保管量
(イ)衣類 :1ヶと四分の1箱
(ロ)本・日用品:1ヶと四分の3箱(訴訟用の資料を含む)合計3箱とする。
(2)3箱を超えた者は、3年以内に規定量にする。
(ハ)6ヶ月毎に調整し、その都度告知・指導する。
(3)これに従わない者に対しては
(ニ)購入を禁じると共に差し入れを禁じ、郵送差入れの場合は自費で強制的に(とは領置金を承諾も得ず消費するとの事か?)返送する。
(ホ)公務所等からの文書類郵送以外の弁護士からの裁判資料の差入れ(郵送含む)も禁ずる。

●広島拘置所:

告知放送は9月上旬に極めて漠然とした内容で告知されました。「法務省令により10月1日から領置品の総量規制がされることになった。詳細は、決まり次第知らせる」といったもので「何箱分に」といった具体的な数字はおろか、現有領置物を減らさねばならないことさえ明言しない形でした。すぐ職員に確認すると「基本的には、倉庫の容量を収容者数で割ったスペースに入る分、となるが、現在の領置物がそれを超える者については、時間をかけて減らす努力はしてもらう。しかし、どうしても残るものがあるのは当然。それは承知しており、強制処分などにはならない。そんなこと出来るはずがない」といった意味のことを複数から聞き出したので、私としては「まあそれならなんとかなるな」と思っていたのです。・・・今回のこれは絶対に破綻すると思うんですよね。これまでは、房内所持の物品に関し、極力これを減らすよう指導されていました。そしていわく「領置すればよい」と。しかし今度の「規制」だとこれまでの「指導」の分の行き場がなくなる。換言すると、これまでのそのような実態をも、今度の「規制」は無視したところから始まっている。やっぱり無茶ですよ。

●那覇拘置支所:

ここ那覇拘置支所においても10月1日付で領置品の量を制限する放送が流されました。はっきりとした数量は不明ですが、衣類カゴ2つ半位と聞いております。・・・困るのは訴訟書類だけでも1カゴ分はあることです。現在上告中ですのであってあたりまえ、その他辞典や気分転換の本ですでにオーバーです。私は文庫本でも2ないし3回読みます。(もったいないですから)しかし、制限されることによりそれも出来なくなり・・・今回のこの見方を変えると違法、違憲とさえ言える処遇はおかしいと確信しています。


領置物基準保管数量(東京拘置所)

10月1日前後に、東京拘置所の「所内生活の心得」(全28ページ)の28ページめに貼付された「お知らせ」の内容は以下のとおり。男性・女性によって内訳が異なっている。

領置物基準保管数量(男)

一.基準保管量
内寸が幅32cm、長さ48cm、高さ30cm、容量46gの領置箱で、2.5箱(内、衣類1.3箱、その他のもの1.2箱)とする。
ただし、裁判所等公務所からの送付文書、信書、寝具及びトランク(大型バッグを含む)はこの保管量から除く。

二、衣類の基準保管数
種類 点数 品目名
上衣 13 背広上、ブレザー、トレーナー上、セーター等
下衣 6 ズボン、トレーナー下等
下着上 9 メリヤスシャツ、半袖シャツ等
下着下 15 メリヤス下、ズボン下、パンツ等
くつ下類 7 靴下、足袋、手袋
防寒着 2 コート、オーバー、ガウン等

寝具類の基準保管数
種類 敷布団 掛布団 枕 座布団
点数 1 1 1 1
種類 毛布又はタオルケット 敷布、枕・座布団カバー
点数 3 各2

四.基準保管数量を超えたときは、宅下げ等により、領置物の減少を図るよう職員が指導するが、その指導に応じないときは購入及び差入れを制限する。

領置物基準保管数量(女)

一.基準保管量

内寸が幅32cm、長さ48cm、高さ30cm、容量46リットルの領置箱で、2.5箱(内、衣類1.4箱、その他のもの1.1箱)とする。
ただし、裁判所等公務所からの送付文書、信書、寝具及びトランク(大型バッグを含む)はこの保管量から除く。

二、衣類の基準保管数

種類 点数 品目名
上衣 13 ブラウス、トレーナー上、ワンピース等
下衣 8 スカート、トレーナー下、スラックス等
下着上 13 半袖シャツ、スリップ、ブラジャー等
下着下 18 ズロース、パンティ、生理帯等
くつ下類 11 靴下、足袋、手袋
防寒着 2 コート、オーバー、ガウン等

寝具類の基準保管数

種類 敷布団 掛布団 枕 座布団
点数 1 1 1 1
種類 毛布又はタオルケット 敷布、枕・座布団カバー
点数 3 各2

四.基準保管数量を超えたときは、宅下げ等により、領置物の減少を図るよう職員が指導するが、その指導に応じないときは購入及び差入れを制限する。