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ナクロとは何か? そして何をしているか?

ブリティッシュ・カウンシルでのセミナーより
ヴィヴィアン・スターン


被拘禁者を支援するボランティアは100年以上前からあり、ナクロは1966年に設立されました。現在、年間予算約900億円、1000名ほどの有給スタッフとそれ以上のボランティアがいます。ナクロは犯罪を予防する手助けをし、加害者と被害者への援助を行なっています。また犯罪多発地域での活動、失業者、健康上や薬物使用の問題を抱える人への援助を行っています。
イギリスでは犯罪は増加しつつあります。犯罪を犯す人をどう対処するかは、継続的な問題です。今では政府も刑務所が「良いアイデア」であるという考えを改め、「現状の低学歴の未熟練労働者に対する社会的な機会の欠如が犯罪の一因である」と考えるにいたっています。
ナクロは出獄者が1年間まで滞在できる宿泊施設を提供しています。また、受刑者が釈放される前のトレイニング・コースを刑務所に提供しています。しばしば、入所直後の若い受刑者は自殺を試みていました。ナクロは、入所直後の受刑者に対し、コミュニティの人々が接触し、受刑者の孤立感を緩和させるような活動を組織しています。
ナクロはできるだけ刑務所を使わないような実践も行なっています。ナクロのプログラムのもとで働く等、一定の条件を満たす場合には、若者は拘禁を免れます。もし条件を満たせば、有罪判決が出ても、この人は拘禁刑ではない処分を受けることになります。 ナクロはまた、アドバイス・デスクを裁判所に設置し、自分の身に何が起こっているかを理解していない被告人に援助を与えています。ナクロは罪を犯した人々に自分の行為の意味を認識させ、社会復帰を援助するプロジェクトも行なっている。
1991年にナクロは若いホームレスの人々に助言を与えるプロジェクトを始めました。ナクロの活動は全コミュニティに関わっています。そして都市を安全に生活できる空間へとするために、政府と協力しているのです。
ナクロの広報部門は、受刑者の家族や友人といった特定の人々に向けた小冊子から、刑事政策全般にかかわるものまで、毎年数百の出版物を刊行しています。また3ヶ月ごとに様々な情報を要約した『刑事司法ダイジェスト』を発行しています。
さらにナクロは、少数民族を不公平に処罰したりしないといった、刑事司法の公正さを保障するような活動もしています。そのため今では、すべての裁判官が「どうすれば差別をしないようになるか」を学ぶトレイニング・コースに参加するようになりました。1991年には「国際的な刑事司法における拘禁刑」というプロジェクトが発足し、多くの国の裁判官が一年に一度それぞれの量刑の原則について議論しています。またナクロはコミュニティ・プリズンについても報告書を出しています。また精神障害の問題を研究する委員会、犯罪と社会政策を研究する委員会もあります。
ナクロの活動は三つの原則に基づいています。
@ 犯罪に対する最良の方法は予防である、
A 社会からの隔離より、社会への統合こそが望ましい、B 被害者に対して補償を行うことで、社会は刑罰よりもすぐれた選択肢を持つことができる、というものです。
ナクロは出獄者の社会復帰を援助しているわけですが、社会復帰とは出獄者本人が生活を立て直そうと希望して初めて出来るものです。強制して出来るものではありません。生活の仕方を変えるには前提があります。ナクロは宿泊所を提供し、職探しを手伝います。一般的に出獄者を雇う企業は多くありません。ナクロは企業と出獄者の間に立ってトレーニングを行ない、企業を説得します。
ナクロは刑務所と密接な関係をもって仕事をしています。ブリクストン刑務所にはナクロのインフォメーション・ルームがあります。2人の受刑者がナクロのために働き、夜は刑務所の房に戻ります。一般人は「刑務所は甘いのではないか、被拘禁者にもっと罰を与えるべきではないか」と考えています。イギリスでは刑務所長・職員とNGOは共通の目的で結ばれています。獄中者に対して公平な取り扱いがなされれば、それだけ管理もうまくいきます。刑務所を理解している者とそうでない者との違いがそこにはあります。