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監獄改革とNGOの役割

監獄人権センター第2回総会・記念講演
ヴィヴィアン・スターン


◆ 今日、監獄人権センター(CPR)の総会で話をできるということは名誉なことです。長い間、日本に来たいと思っていました。被拘禁者の人権を守るため活動している仲間として日本に来られたことが特にうれしいです。今日はペナル・リフォーム・インターナショナル(PRI)の事務局長として話をします。CPRは日本、アジアで重要な役割を果たすことができます。PRIとしても皆さんに援助を頼むことがあるでしょう。

◆ 市民的及び政治的権利に関する国際条約10条には「自由を奪われたすべての人々は人道的にかつ人間固有の尊厳を尊重して取り扱われる」と述べられています。これは拘禁されているあらゆる人々にあてはまる基本的最低原則です。しかし世界の刑務所では人々が不公平に扱われ、人権が尊重されていません。
 イングランドにおいても、人権が尊重されているとは言えません。先月イギリス人の被拘禁者が出産のため外部の病院に行った所、鎖をつけられました。イギリスのNGOがその写真を撮りテレビで放映し、大騒ぎになって、政府は方針を変えました。世界で最も有名な元囚人、ネルソン・マンデラ氏は「国家は最もレベルの高い市民を扱うやり方ではなく、最もレベルの低い者の扱いによって判断される」と言いました。国連最低基準に達していない拘禁施設はたくさんあり、権力の濫用がいたるところで行われています。第三世界や東欧では経済的問題があり、刑務所に十分なお金がないため、医療が受けられなかったり、十分な食物や水がなかったりします。

◆ こういった問題を考えるため、1989年ロンドンでPRIは設立されました。同じ日にベルリンの壁が破られたのです。PRIの5つの目的は、@全ての国が被拘禁者処遇についての国連基準に従わなければならない。A被拘禁者の人数を減らすこと。B刑務所を代替するシステムをサポートすること。C死刑廃止に向けた働きかけ。D刑罰制度に存在する差別や偏見を無くすこと、です。以上の目的を達成するため、PRIは各国のNGOを育成し、政府が国連基準に従うよう、政府機関とも協力して活動を進めています。

◆ 日本の被拘禁者の数は多くありません。ロシアでは100万人が監獄・労働収容所におり、人口10万人当たり666人です。アメリカでは150万人の囚人がいて、10万人当たり578人です。世界全体の被拘禁者は500万人か、それ以上といわれています。中国の被拘禁者数がわからないため、総数は出せません。中国の反体制派の1500から2000万人が何らかの形で身柄を拘束されていると言われています。中国政府は国連に120万6千人と報告しています。
 拘禁されている人々の家族も合わせると、拘禁により影響を受ける人は数百万人に上ります。PRIは被拘禁者の数を減らすことを目指しています。しかし同時に、犯罪を直視しその犠牲者たちのことを考えなければなりません。拘禁より優れた罰のあり方は存在します。近年監獄に代替する罰に多くの努力がなされてきました。国連には「東京ルール」という、国連アジア極東犯罪防止研究所で作られたガイドラインもあります。

◆ 死刑を廃止しなければなりません。死刑は犯罪を抑止しません。また死刑は正義に反して不公平に適用されます。例えばアメリカでは、死刑になる人は良い弁護士を雇えない貧しい人です。国家には市民の生命を奪う権利はないのです。

◆ 刑の執行方法に差別があってはなりません。世界中の監獄には貧しい人々や、夫の暴力へ反撃した女性が囚われています。ニュージーランドのマオリ、オーストラリアのアボリジニー、アメリカの黒人など、被拘禁者の多くは少数民族です。

◆ 「なぜ被拘禁者の人権なのか」とよく聞かれます。被拘禁者は危険であり、もっと有意義な活動があるのではないか、と。ボスニアやルワンダの例にも見られるように、人間は自分の支配下で自由を奪った人間に対しては拷問でも殺人でも容易に行なってしまうのです。人間とは残念ながら残虐なシステムを作ることにたけています。その反省から、第二次世界大戦後、人権を守るための枠組みを作りました。国連の被拘禁者最低基準規則はNGOが作り国連で批准されたものです。これらを実効あるものにするため、PRIはメーキング・スタンダーズ・ワーク(MSW)を作りました。翻訳されたのは日本語が最初です。PRIのニュースレターで日本語訳出版のことを書き、他の国をせきたてようと思っています。MSWはNGOのための道具です。CPRのようなNGOにとって被拘禁者の人権を守るための重要な役割を果たすでしょう。

◆ NGOの役割は何でしょう。第1に刑務所の監視です。刑務所の中で何が起こっているかについて情報を集め、この情報を広く世界に、そしてメディアに公開しなければなりません。監獄は閉じられた世界で、多くの人は中で何が行われているか知りません。イギリスでは監獄はヒルトンホテルなみだと思っている人がいます。監獄の情報を明らかにすることによって、市民の関心を高めるのです。
 第2に被拘禁者を人間として処遇することの必要性について、広く議論を巻き起こすことです。被拘禁者を冷遇することは犯罪を減らすどころか増やすということを、人々に説明しなければなりません。
 第3に被拘禁者の社会復帰を助けるようなサービスを監獄当局を補佐して提供したり、被拘禁者の家族を助けるような事もしていかねばなりません。そして被拘禁者が出所した時に、住居や仕事の問題で彼らを助けるような役割も担わねばなりません。NGOの中には宿泊所や作業所を運営しているところもあります。

◆ 私がCPRに提案することは3つあります。●日本の刑務所の実態についての情報を集め、英語に訳してください。そしてニュースレターや雑誌を出版し、世界にその情報を流してください。●他の国で何が起こっているか、情報を集めることです。●被拘禁者の人権を守るためのセンターを設立するために、他の国を援助することです。また国際会議に出て行って被拘禁者の状況について提起してください。皆さんの仕事は重要です。
 最後に。たとえ刑務所にいようが、被拘禁者も私たちと同じ人間です。私たちは彼らを私たちと同じように扱わねばならないし、それは被拘禁者の権利であると同時に、私たちの義務なのです。このことをすべての人々に思い起こさせるというCPRの活動は大きく社会に貢献していることを、私は確信しています。